安倍元首相の死去を受け、国会議事堂に掲げられた半旗
=7月11日午後(共同)
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日本の警察史上に残る痛恨事である。トップの引責は当然だ。警察庁は国民の信用を取り戻すべく、立て直しを急がなくてはならない。
安倍晋三元首相が銃撃されて死亡した事件を受けて、警察庁の中村格長官が辞意を表明した。中村長官は「新たな警護警備をこれから進める状況の中で、人心を一新した新しい体制で臨むのが当然」と述べた。
奈良県警も警備責任者らの懲戒処分などを発表し、鬼塚友章本部長も辞意を表明した。
警察庁は25日、安倍氏銃撃事件の検証結果を公表した。
安倍氏という警護対象者が落命している以上、警備体制に重大な瑕疵があったことはすでに明らかだが、猛省を今後に生かすべく、失態の中身を詳細に検証することは欠かせない。
検証結果の報告書が改めて明らかにしたのは、容疑者の背後からの接近をやすやすと許した杜(ず)撰(さん)な配置や警備担当者間の連絡の不備であり、銃器による殺意を想定外とした致命的な緩みだった。
現役首相や海外の要人以外は警護警備計画を都道府県警任せにしてきた警察庁の責任も大きい。
「適切な対応があれば結果を阻止できた可能性が高い」とした報告書の指摘が、なんともむなしく響く。安倍氏は、なくさなくてもいい命を落としたことになる。
警察庁は警護強化策として、警察庁警備局内に担当部署を新設する。警視庁の警護官(SP)も倍増させる。警護の基本的事項を定める「警護要則」を見直して新たに制定し、都道府県警が作成する警護計画の事前審査に警察庁の関与を強化する。
一般企業の不祥事対応でも原因調査、改善策の公表とともに、処分などで責任の所在を明確にするのが常道である。この機に警察庁長官や奈良県警本部長が辞意を表明したことには首肯できる。
ただ、決して失敗が許されない重要警備事象が今後も続く。9月27日には海外の要人らが多く参列する安倍氏の国葬が営まれる。来年5月には広島市で先進7カ国首脳会議(G7サミット)が開催される。新たな体制の構築に猶予の間はない。
安倍氏銃撃の可能性を想定外とした警察の緩みは、半面、社会の緩みでもある。有事はいつ、どんな局面でもあり得る。各自がそれぞれの立場で覚悟を改めたい。
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2022年8月26日付産経新聞【主張】を転載しています