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宝塚歌劇団の俳優の女性が昨年9月に急死した問題で、歌劇団側が女性へのパワハラ行為があったことを認める意向を示した。具体的説明は不十分で遺族は納得していない。
将来のある女性の命が失われた極めて重大な問題だ。歌劇団がそれをどこまで真剣に受け止めているのか疑問である。
遺族側と歌劇団側は、謝罪や公表の仕方などを盛り込んだ合意書を結ぶための話し合いを今後も続けるという。
そこで遺族側が納得できる内容を示せなければ、歌劇団の再生に向けた道も遠い。そのことを厳しく自覚すべきである。
歌劇団側はこれまで過重労働は認めていたが、パワハラについては「確認できず」としていた。それが今年1月、遺族側が提示していた15件のパワハラ行為のうちほぼ半分を認める姿勢を見せるようになった。
問題はその説明である。歌劇団側は「交渉による合意が成立した場合」にパワハラを認めて謝罪するとしたことだ。
これはおかしい。歌劇団側の姿勢には、遺族の感情に寄り添うよりも、まずは合意を優先しようとする不誠実さがみられないか。
謝罪文の内容や合意時の公表方法についても双方の見解は一致していない。そもそも、遺族側が提示した15件の行為のうちどれをパワハラと認定しているのかも歌劇団側は示していない。これでは遺族側が納得できないのも当然だろう。
遺族側代理人は、歌劇団側が行った幹部や上級生らへの聞き取り調査も「上級生らの言い分をそのまま受け入れる傾向が強い」と問題視している。挙げ句には「(歌劇団側は)ハラスメントに関する知識に乏しい」と批判されたほどだ。
遺族側の会見では、亡くなった女性の妹で、自身も歌劇団の現役俳優である女性の声明文が読み上げられた。この中で歌劇団について、「日常的にパワハラをしている人が当たり前にいる世界」と証言し、「宝塚は治外法権の場所ではありません」と断じた。その上で「企業として、公平な立場で事実に向き合うべき」だと求めている。
歌劇団を運営する阪急電鉄の親会社、阪急阪神ホールディングスも含めて、遺族によるこの切実な言葉を今一度、かみしめてもらいたい。
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2024年2月29日付産経新聞【主張】を転載しています