裁判員裁判は被告に死刑判決を言い渡した。
国民から選ばれた裁判員らが熟慮を重ねた結果である。残念ながら世の中には、厳刑をもってしかあがなうことができない罪がある。
神奈川県座間市のアパートで平成29年、15歳から26歳の男女9人が殺害された事件で、強盗強制性交殺人などの罪に問われた被告に、東京地裁立川支部の裁判員裁判は死刑判決を選択した。
被害者らは自殺願望を抱えるなどしており、ツイッターに「死にたい」などと書き込んでいた。被告はSNSなどで言葉巧みに相談に乗るようにみせかけ、被害者を誘い出していた。
被害者の遺族らは娘、息子が懸命に生きようとしていた姿を法廷で証言した。それぞれに悩みを抱えていたが、一方で将来の夢や目標もある若者だった。
判決は「多数名の命が奪われた殺人ないし強盗殺人等の事案の中でも犯情は相当悪く、犯罪史上まれにみる悪質な犯行」「SNSの利用が当たり前になっている社会に大きな衝撃や不安感を与えた」と厳しく指摘した。
死刑は究極の刑罰であり慎重な判断が求められるのは当然だ。
最高裁が連続4人射殺事件で昭和58年に示した死刑判断基準、いわゆる「永山基準」は(1)犯行の罪質(2)動機(3)犯行態様、特に殺害方法の残虐性(4)結果の重大性、特に殺害された被害者数(5)遺族の被害感情(6)社会的影響(7)被告の年齢(8)前科(9)犯行後の情状-の9項目を総合的に考慮し、やむを得ぬ場合に死刑選択が許されるとした。
座間の事件はこの9項目の総合的検討により「死刑をもって臨むことが真にやむを得ないと認められる」(判決から)という結論に至ったものだ。
死刑廃止は国際的潮流であるなどとして、日本弁護士連合会などは制度の廃止や、廃止に至るまでの執行停止を求めている。
一方で、内閣府が昨年実施した世論調査では「死刑もやむを得ない」との回答が8割強を占めた。死刑制度は、十分に国民の賛意を得ているといえる。
裁判員裁判による死刑判決は、今年9月末時点で39件を数えた。裁判員は難しい評議に苦しみながら死刑制度と向き合ってきた。その真摯(しんし)な評議の集積が死刑制度を根付かせてきた。日本に「死刑」は必要である。
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2020年12月16日付産経新聞【主張】を転載しています