20231023 Kishida Policy Speech 001

Prime Minister Fumio Kishida delivers a policy speech at a plenary session of the House of Representatives at the Diet on October 23.(©Sankei by Yasuhiro Yajima)

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岸田文雄首相が臨時国会で所信表明演説を行い、「職を賭して粉骨砕身取り組む覚悟だ」と訴えた。重視する経済政策を含めて内外の諸課題への対応に協力と理解を求めるものだ。

 

政権への国民の視線が厳しさを増す中での演説である。衆参両院の補欠選挙で自民候補は衆院長崎4区で勝ったが、参院徳島・高知選挙区で敗北した。

 

首相に求められるのは課題に真摯に取り組む姿勢であり、それを分かりやすく国民に説明する発信力だ。演説でそれが十分に示されたわけではない。国会論戦を通じていかに指導力を発揮できるかが問われよう。

 

 

改憲条文案で指導力を

 

物足りないのは国の繁栄の基盤である安全保障への言及である。中東情勢は緊迫し、ロシアのウクライナ侵略は長期化している。日本周辺でも中国や北朝鮮の脅威が高まっている。

 

「『ポスト冷戦時代』は終わり、新たな時代へと大きな変化の流れが起きている」との首相の認識は正しい。問題はその明確な対応策が伝わってこないことである。

 

参院本会議で所信表明演説を行う岸田文雄首相=10月23日午後、参院本会議場(鴨志田拓海撮影)

 

中国は台湾併吞をにらみ武力行使も辞さない構えだ。他国への経済的威圧も目に余る。首相は日本産水産物への不当な禁輸の撤廃は求めたが、覇権主義的行動を明確に批判することはなかった。

 

防衛力の抜本強化は反撃能力の保有や継戦能力向上にとどまらない。有事を想定し空港、港湾、シェルターの整備、経済安保など総合的な体制を整える必要がある。国民のさらなる理解を求めなくてはならない。

 

憲法改正では「条文案の具体化」に向け、「積極的な議論を期待する」と述べた。首相は来年9月までの自民党総裁任期中の改憲を表明してきた。実現には今国会で原案を大筋でまとめる必要がある。党総裁として改憲論議を主導すべきである。

 

所信表明や施政方針演説で触れてこなかった安定的な皇位継承策に言及し、早期に「立法府の総意」をまとめるよう呼びかけた。男系(父系)継承を貫く皇統の歴史を守るべく憲法改正と同様の指導力を求めたい。

 

北朝鮮による日本人拉致問題では首相直轄のハイレベル協議を進め、「大局観に基づく判断をする」と明言した。被害者や家族は高齢化している。局面の打開が急務である。

 

首相が演説で「経済、経済、経済」と連呼し、重点を置くとした経済政策には疑問符がつく。コストカット型経済からの完全脱却を目指し、「供給力の強化」と「国民への還元」を車の両輪にすると訴えた。これを具体化する総合経済対策も近く策定される。

 

衆院本会議で所信表明演説を行う岸田文雄首相=10月23日午後、衆院本会議場(矢島康弘撮影)

 

経済は新型コロナ禍の最悪期を脱して改善傾向だ。長年の宿痾(しゅくあ)である需要不足もほぼ解消し、賃上げも広がっている。供給力強化はこの流れを後戻りさせないための措置だ。

 

労働生産性を高め、人手不足の解消や賃上げにつなげなくてはならない。首相は3年程度を変革期間とし、賃上げを促す減税や投資減税などを強める考えだ。実効性の高い施策を講じられるかが問われる。

 

 

世論の歓心買うだけか

 

問題は国民への還元だ。物価高に賃上げが追い付かないため負担を一時的に緩和するのだという。首相は所得税減税を含む検討を与党に指示した。自民党税制調査会の宮沢洋一会長は減税期間について「1年が極めて常識的」と述べた。低所得層への給付措置も検討の方向だ。

 

その前に問いたい。経済が回復する中で所得税を減税する必然性はどれほどあるのか。

 

物価高対策は、苦境に立つ低所得層に絞るのが筋で、高所得層まで恩恵が及ぶ減税の理由は見いだしにくい。すでにガソリン高を緩和する補助などを一律に行っているのに、幅広い層への減税まで必要なのか。

 

効果も見極めるべきだ。減税分が消費より貯蓄に回る可能性はないか。減税がインフレを助長する恐れはないのか。実施が法改正後の来年度以降となるなら即時性に乏しい面もある。

 

参院本会議で所信表明演説を行う岸田文雄首相=10月23日午後、参院本会議場(鴨志田拓海撮影)

 

首相はこうした疑問に明確に答えなくてはならない。不十分なら、世論の歓心を買いたいだけのバラマキとみられよう。

 

防衛力強化や少子化対策で歳出が増大する中、負担増の議論は避けられない。与党には、首相がネット上で「増税メガネ」と揶揄されることを嫌がっているとの見方がある。「国民への還元」がその対策にすぎないのなら、決して国民の信頼を得られないと認識すべきである。

 

 

2023年10月24日付産経新聞【主張】を転載しています

 

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