北朝鮮による拉致被害者家族と面会するバイデン米大統領(左から2人目)
=5月23日、東京・元赤坂の迎賓館(内閣広報室提供)
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来日したバイデン米大統領は北朝鮮による拉致被害者家族と面会し、横田めぐみさんの母、早紀江さんに膝をついて話しかけるなど、家族の悲しみや怒りに寄り添う姿勢をみせた。
めぐみさんの弟で、家族会代表の横田拓也さんは「変わらぬ支援の気持ちを頂き、勇気づけられた」と述べた。
米大統領のこうした言動は、国際社会に向けた強いメッセージとなる。北朝鮮による残酷な国家犯罪を日米両国をはじめとする国際社会は決して許さない。拉致問題の解決なしに未来を描くことはできないと北朝鮮に理解させることは、拉致被害者全員の解放に結び付ける唯一の道筋である。
だが、バイデン氏の理解や温かな言動が、北朝鮮を直接動かすことはない。過去の経緯を振り返れば、事態が動く背景には必ず米国の圧力があった。
平成14年、日朝首脳会談で金正日総書記が拉致を認めて謝罪し、蓮池薫さんら5人の拉致被害者が帰国した際には、当時のブッシュ米政権が北朝鮮を「テロ支援国家」に指定し「悪の枢軸」と名指しして圧力を強めていた。
トランプ前米大統領が金正恩朝鮮労働党委員長(当時)との2度の首脳会談で拉致問題を直接提起した背景には、軍事行動も辞さない米側の強硬姿勢があった。
拉致問題を解決すべき主体は日本政府だが、軍事的圧力は同盟国の米国に頼らざるを得ない。拉致問題を放置したまま核・ミサイルの挑発を続ける北朝鮮に対して日米が結束して経済、軍事両面からの圧力を強め、包括的解決の道を探るしかない。
最終的に拉致被害者全員を取り戻すためには、日朝首脳会談で北朝鮮のトップ、金正恩氏に決断を迫る必要がある。このゴールから逆算して交渉を進めるべきだ。
その意味では、林芳正外相が22日に新潟市で行った講演は、内容も場所もタイミングも最悪といえた。日米首脳会談を目前に控え、めぐみさん拉致の現場である新潟市で、北朝鮮における新型コロナウイルスの感染拡大について「放っておけばいいとは、なかなかならない」と述べたのだ。支援を示唆した発言は人道的見地からといいたいのだろうが、拉致・核・ミサイル問題を差し置いての援助はあり得ない。外相としての重責をもっと自覚すべきである。
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2022年5月25日付産経新聞【主張】を転載しています