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北朝鮮による拉致被害者の家族らを、ここまで追い詰めたのは誰か。
もちろん悪いのは、無辜の日本人を国家主導で拉致、誘拐し、解決に向けても背を向け続ける北朝鮮である。
ただ家族会の怒りは、事態を打開できぬまま時ばかりが過ぎていく日本政府の交渉にも向けられている。政府はこの事実を重く受け止めなくてはならない。
拉致被害者の家族会と支援組織「救う会」が被害者救出に向けた今年の運動方針を決定した。日本政府に「(被害者の)親世代が存命中」の全拉致被害者の即時一括帰国を求める一方で、一括帰国が実現するのであれば「北朝鮮に対する人道支援には反対しない」との立場を初めて明記した。
従来の北朝鮮の核・ミサイル問題との包括的解決から、拉致問題の単独解決に向けて、一歩踏み出した方針といえる。
背景には「親世代」の超高齢化がある。拉致被害者の親世代は多くが亡くなり、2人だけとなっている。横田めぐみさんの母、早紀江さんは87歳、有本恵子さんの父、明弘さんは94歳となった。2人とも娘の帰国を信じて共に救出運動を戦った伴侶を亡くし、体調にも不安がある。
めぐみさんの弟で、家族会代表の拓也さんは「残された時間がないという切迫感を肌で感じている」と述べた。「親子の再会」を切望してきた家族会が、一刻も早い被害者帰国の実現を焦るのは、当然のことである。
岸田文雄首相は2月26日の自民党大会で「拉致問題は一刻の猶予も許されない最重要課題だ。あらゆる機会を逃すことなく、引き続き全力で取り組んでいく」と述べた。いつも通りの発言であり、そこに熱は感じられない。
早紀江さんは産経新聞に掲載した連載「めぐみへの手紙」に、こうつづったことがある。
「拉致事件が起きて40年以上が過ぎゆく中、非道で残酷な事実は風化し、解決が遠のいていく不安を常に感じています」
「このままでは、日本は『国家の恥』をそそげないまま、禍根を次の世代に残してしまいます」
政府は、北朝鮮への人道支援に条件付きで「反対しない」と言及した家族会の方針を、「悲鳴」と聞くべきである。そして何としても被害者を取り戻すのだという決意を行動で示してほしい。
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2023年2月28日付産経新聞【主張】を転載しています