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自衛隊と韓国軍の協力が、信頼という最も肝心な要素を欠いたまま進められようとしている。
浜田靖一防衛相がシンガポールで韓国の李鐘燮国防相と会談し、北朝鮮やインド太平洋地域をめぐって防衛協力を推進することで一致した。
これに先立ち、オースティン米国防長官を加えた日米韓の防衛担当閣僚は会談で、北朝鮮の「軍事偵察衛星」打ち上げの試みを非難した。北朝鮮弾道ミサイル情報の即時共有の年内開始や3カ国共同演習の定例化で合意した。
これらは、普通の国同士の合意であれば安全保障協力の前進として評価できるが、今回ばかりは不安が残る。
韓国海軍駆逐艦による海上自衛隊哨戒機への火器管制レーダー照射問題の解決が先送りされたからだ。浜田氏と李氏は「類似事案」の再発防止に向けた協議を加速させることを確認した。
だが、韓国側は今も照射の事実を認めず、海自機が威嚇飛行したという主張を変えていない。双方の考える「類似事案」の中身が違うのだから協議は進むまい。
2018年12月20日、日本海で韓国海軍駆逐艦が海自哨戒機にレーダー照射した。目標をミサイルなどで攻撃する準備で、危険な敵対的行為といえる。照射の事実は、自衛隊が公表したレーダー探知音などから明らかである。
海自機は国際法、航空法にのっとって通常の哨戒飛行をしていた。そこで日本側は、韓国側に非を認めて再発防止策を講じるよう促してきた。
にもかかわらず、韓国側は海自機が威嚇したという虚偽を唱え、日本に謝罪を求めた。再発すれば「軍の対応規則に従って強力に対応する」と警告してきた。
反日傾向が極めて強かった文在寅前政権下の出来事だが、安全保障政策で前政権よりも現実的な姿勢をとる尹錫悦現政権でさえ照射の事実を認めない。極めて残念というほかない。
韓国の政府と軍は自浄能力が働いていない。このままでは自衛隊が韓国軍と安定した信頼関係を築くのは難しい。それを喜ぶのは北朝鮮や中国である点に気付くべきである。
岸田文雄政権は、韓国の理不尽な主張に目をつむるという、戦後の対韓「甘やかし外交」の悪い癖を繰り返してはならない。
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2023年6月6日付産経新聞【主張】を転載しています