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1973(昭和48)年10月の第4次中東戦争を発端とした第1次石油危機の発生から50年が経過した。
この世界的なエネルギー危機は日本を直撃し、店頭からトイレットペーパーが消えるなど国民生活はパニックに陥った。
石油価格の急激な高騰で翌年度の消費者物価が年20%超も上がるインフレの嵐が吹き荒れ、経済成長率は戦後初めてマイナスを記録した。これによって高度経済成長は終焉(しゅうえん)を迎えた。
貴重な教訓を忘れるな
石油危機を受けて政府は脱石油に取り組み、原子力発電や液化天然ガス(LNG)へのシフトを進めた。同時に省エネも推進し、世界に冠たる環境立国の基礎を築いた。だが、危機から半世紀がたった今、日本は再び深刻なエネルギー危機に見舞われている。
ロシアのウクライナ侵略や世界で広がる脱炭素の中で、石油をはじめとした燃料価格が高騰し、電気・ガス代の値上がりが暮らしや産業に大きな打撃を与えている。首都圏を中心とした東日本では、冷暖房需要が増える夏と冬の電力需給は逼迫(ひっぱく)を強いられている。
今こそ50年前の貴重な教訓を生かし、国家の基盤であるエネルギー安全保障を改めて強化する必要がある。
岸田文雄政権は今年2月、「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」を閣議決定した。再生可能エネルギーの推進と原発の活用を柱に位置付け、エネルギー安定供給と脱炭素の両立を目指すという政府の姿勢を打ち出したものだ。
この基本方針は冒頭で「ロシアによるウクライナ侵略が発生し、世界のエネルギー情勢は一変した」と指摘した。そのうえで日本の現状について「73年の石油危機以来のエネルギー危機が危惧される極めて緊迫した事態に直面している」との強い危機感を示した。
岸田政権が日本を取り巻くエネルギー情勢をめぐり、そうした厳しい認識を持つことは重要である。だが、残念ながら政府のエネルギー政策に危機感はみられない。脱炭素に向けた再生エネばかりに注力し、エネルギーの安定調達や電力の安定供給に資する具体的な成果が得られていないからだ。
岸田首相は昨年、安全性を確認した原発の再稼働を進めると表明した。だが、東日本大震災に伴う東京電力福島第1原発事故以降、再稼働を果たした原発は西日本に限られる。東日本で再稼働した原発はいまだに1基もない。
原発再稼働が進む関西電力や九州電力の電気料金は抑えられている半面、原発が再稼働していない東京電力や東北電力、北海道電力などは大幅な料金値上げに踏み切った。
これによって東西の料金格差はさらに拡大し、今後の工場誘致などの産業立地にも影響を及ぼす恐れがある。
LNG備蓄制度検討を
石油危機の教訓は、エネルギーの調達先だけでなく、電源構成も多様化することで安定調達・安定供給を実現し、エネルギー安全保障の強化につなげることである。そのためには洋上風力などの新たな再生エネを拡大しつつ、ベースロード(基幹)電源として原発の活用を進めなければならない。
石油はここに来て中東依存度が再び高まっており、現在は石油危機当時を上回る高い水準で推移している。石油など海外における資源権益の獲得は政府の責務でもある。首相の資源外交が問われている。
さらにロシア極東サハリン(樺太)からの輸入に全体の約9%を依存するLNGについても、その調達先の拡大は急務である。ロシアは欧州向けの天然ガス供給を意図的に絞り、ドイツを中心とした欧州に強い揺さぶりをかけている。日本はその轍(てつ)を踏んではならない。
第1次石油危機後、日本ではエネルギー安全保障の一環として石油備蓄制度を導入し、現在では官民で約230日分の備蓄を確保している。しかし、電源構成の主力の座を占めるLNG火力発電向けのLNGには備蓄制度がない。
政府が脱炭素を進める中で、電力・ガス会社はLNGの新規調達先の開拓や備蓄には消極的だ。とくに備蓄には技術的に解決しなければならない課題も多い。岸田政権はLNG調達や備蓄を全面的に支援することも検討してもらいたい。
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2023年10月6日付産経新聞【主張】を転載しています