国と自治体の対応の不備、遅れが招いた悲劇である。
新型コロナウイルスに感染し、「軽症」と診断されて自宅待機していた埼玉県内の50代男性が死亡した。
県などによると、男性は20日夜に体調悪化を保健所に伝え、21日には入院予定だった。入院前に容体が急変し、搬送先の病院で死亡が確認されたという。
タレントの志村けんさんをはじめ、新型コロナ感染症では病状が急激に悪化して短期間のうちに死に至る場合がある。
男性の場合、保健所による電話での健康状態の確認は毎日行われていたという。容体の急変に対応できなかった現実を、重く受け止めなければならない。
「救える命」を一つでも多くするため、そして感染拡大を食い止めるためにも、軽症者の自宅での待機、療養は原則廃止とし、ホテルなど宿泊施設の利用を、質・量ともに拡充すべきである。
埼玉県によると、県内の感染者数は22日に700人を超えたが、半数近い349人は自宅待機中だという。県は患者との連絡、健康状態の把握などの対応に問題はなかったとの認識を示した。
しかし、医師、看護師が常駐するホテルで軽症者が待機、療養する態勢ができていれば、容体の急変に迅速に対応できたはずだ。
政府の対応も遅い。
加藤勝信厚生労働相は23日になって、宿泊施設利用を基本とする考えを表明した。
宿泊施設の利用拡充を求める声は早くからあった。政府も自治体任せにせず、連携を密に態勢づくりを急がねばならない。
クルーズ船や医療機関での集団感染を考えれば、一般家庭での感染防護は不可能である。一方で、重症患者の増加に備え、医療崩壊を起こさないためには入院患者数の抑制は不可欠だ。
だからこそ、軽症者用の宿泊施設の確保を一括して政府が行い、医師や看護師の配置、容体急変が発生した場合の対応、食事など生活サポートのモデルを確立する。各自治体にこれを押し付けるかたちの「プッシュ型支援」も検討すべきだろう。
宿泊施設で軽症者らの受け入れ態勢に余裕を持たせることは、コロナ対策の最重点である「医療崩壊阻止」と「検査態勢の拡充」に欠かせない。
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2020年4月24日付産経新聞【主張】を転載しています