破壊されたロシアの戦車や装甲車
=4月2日、ウクライナ・キーウ近郊ブチャ(ロイター)
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ロシアとウクライナの停戦交渉で初めて具体的進展がみられた。
ウクライナは北大西洋条約機構(NATO)加盟を断念する中立化を提案した。ロシアは首都キーウ周辺での軍事活動を大幅に削減する。
だが、期待感を持つのはまだ早い。ロシアはこれまで何度も噓をついてきた。信用できない。米欧や日本は警戒を緩めず、ロシアに停戦に応じて軍の完全撤退を迫り、侵略をやめさせねばならない。
2月28日以降、対面による停戦交渉は4回目となる。ウクライナは同国の安全を保証する関係国の枠組みができた後に、中立化を受け入れるとした。外国軍の基地を設置しない方針も示し、ロシアとの合意について国民投票を行う必要性を強調した。ロシアには、ウクライナの欧州連合(EU)加盟に反対しないことを求めた。
ロシアは、軍事活動の大幅削減は相互の信頼を醸成するためと説明しているが、停戦条件を示していない。まずはウクライナの提案を受け入れるのが先決だ。
警戒すべきは、ロシアが発信する偽情報だ。
多数の死傷者を出した東部マリウポリの劇場はロシア軍に空爆された。だが、ロシアは攻撃を否定し、ウクライナ側の仕業だと主張した。ラブロフ外相はウクライナへの侵略後も「ウクライナを攻撃していない」と述べていた。
米国防総省のカービー報道官は3月29日、キーウ周辺では削減表明に合わせて一部ロシア軍部隊の移動を確認したとし「本当の撤退ではなく再配置だ。だまされてはいけない」と警戒感を示した。バイデン米大統領は英国、フランス、ドイツ、イタリア各首脳との電話会談で「どういう行動を取るか見極める」方針で一致した。
ロシアは信頼醸成を口にしながら、交渉を有利に運ぶため、停戦交渉中も南部ミコライフで行政庁舎をミサイル攻撃した。
さきの大戦の終了間際、日ソ中立条約を一方的に破り、北方領土に攻め込んだのもソ連だ。そもそも侵略を続けるプーチン政権との交渉はあり得ないが、3月になって北方領土問題を含む平和条約締結交渉の中断も発表した。
日本はロシア制裁で半導体や炭素繊維などの輸出禁止を決めた。停戦合意してもプーチン政権は続く。米欧と協調してロシアの暴挙を封じていかねばならない。
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2022年3月31日付産経新聞【主張】を転載しています