5月9日、ロシアの首都モスクワにある無名戦士の墓で
献花式典に参加したプーチン大統領(中央)=ロイター
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ウクライナを侵略しているロシアが、岸田文雄首相や細田博之、山東昭子衆参両院議長ら政府・国会関係者、自衛隊の山崎幸二統合幕僚長、産経、読売、日本経済各新聞社などメディア、大学関係者ら日本人63人の入国を無期限で禁止する制裁を科してきた。
日本が講じた対露制裁への報復なのだという。露外務省は岸田政権が「過去に例のない反ロシア施策を推進」し、「国際社会におけるわが国の権威を傷つける具体的な措置」を取ったからだと主張している。
責任はプーチン政権に
おかしなことを言うものだ。
ロシアの権威を傷つけたのは日本ではなく、国連安全保障理事会の常任理事国でありながら隣国ウクライナを侵略し、市民を虐殺する戦争犯罪を重ねるプーチン政権と露軍のほうである。
日本政府はそのような過ちを正すために先進7カ国(G7)の一員として制裁を科している。心あるロシア国民から感謝されこそすれ、報復されるいわれはない。
岸田首相が「日露関係をこのような状況に追いやった責任は全面的にロシアにある」と指摘し、「(入国禁止を)断じて受け入れることはできない」と述べたのは当然である。
ロシアの入国禁止措置は、日本の行政府と立法府、自衛隊制服組のトップを対象にした。これでは、日本政府も国会も自衛隊も、プーチン政権とまともな関係を築くことは難しい。
対話の否定は孤立をさらに深めるだけだ。プーチン政権は今回の措置を撤回すべきだ。ウクライナから軍を撤退させ、謝罪と賠償に応じるべきはもちろんである。
プーチン政権に反省の色が見られないのなら、日本はさらなる制裁を講じなくてはならない。
バイデン米大統領は近く、G7首脳と対露追加制裁について話し合う考えを示した。岸田首相には追加制裁のリード役になってもらいたい。
入国禁止リストに林芳正外相、岸信夫防衛相、鈴木俊一財務相は含まれたが、主要閣僚の一人である萩生田光一経済産業相の名前はなかった。ロシアは、経産省が関わっている原油採掘の「サハリン1」、天然ガス開発の「サハリン2」とのつながりを維持したいのではないか。
だが、侵略の戦費を日本が支払ってはならない。岸田首相はロシア産の石油、天然ガスの輸入を停止すべきだ。萩生田経産相が兼務する「ロシア経済分野協力担当相」のポストは無用である。即刻廃止するときである。
露外務省は、入国禁止にしたメディア、大学関係者について、「わが国に対する西側の偏見に影響された」と決めつけ、岸田政権の言動に「同調した」と指摘したが、笑止千万である。
プーチン政権が自国の言論、報道の自由を封殺するばかりか、自由の国である日本のメディアや識者も攻撃の対象にしたのは容認できない。
報道と言論の自由守る
産経新聞社は飯塚浩彦社長、斎藤勉論説顧問ら4人が入国禁止のリストに載った。6人いた大学関係者のうち3人が本紙「正論」執筆メンバーだ。いずれも、いわれのない措置である。
メディアが強権的な外国政府から抑圧されるのは今回に限らない。例えば、中国の文化大革命を取材し、その本質が権力闘争だと見抜いた産経新聞北京支局長、柴田穂記者は昭和42(1967)年、国外退去処分となった。その後、産経新聞社は長く北京に取材拠点を置くことを許されなかったが、迎合せずに報道と言論の自由を守ろうとしてきた。
旧ソ連・ロシアをめぐり産経新聞社は同じ立場をとってきた。ウクライナ侵略と、旧ソ連・ロシアの北方領土不法占拠は「力による現状変更」という点で共通している。ウクライナ侵略は主権国家の領土保全を謳(うた)う国連憲章を無視し、北方領土不法占拠は日ソ中立条約、ポツダム宣言に反しているからだ。
ウクライナに平和を取り戻すことと、日本固有の領土である北方四島の返還は、世界と日本に正義を実現する上で極めて大切だ。
これからも産経新聞社は、ウクライナ侵略や北方領土をはじめとするさまざまな問題について、事実に基づく公正な報道と言論活動に努めていきたい。
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2022年5月6日付産経新聞【主張】を転載しています