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ウクライナ侵略を続けるロシアのプーチン政権が、ウクライナなどとの黒海での「穀物合意」の履行を一時的に停止すると表明した。
アフリカや中東、南米など途上国の人々の食料危機を深刻化させかねない暴挙だ。ロシアは即刻、無条件で合意に復帰しなければならない。
林芳正外相は「今回のロシアの決定がもたらす負の影響は、ロシアが最終的な責任を負う」と非難した。国連安全保障理事会でも「途上国などを人質にとっている」と批判が相次いだ。
ロシアは昨年7月、国連とトルコの仲介で、ウクライナから穀物を輸出する船舶の安全航行を保証する「回廊」の設置などで合意、これまで3回、延長してきた。
今回の合意離脱の背景には、欧米の対露経済・金融制裁でロシアの穀物輸出に支障が出ているとの不満が指摘されている。しかし、全ての責任は侵略をやめようとしないロシア自身にある。
国連やトルコは露農業銀行を国際決済ネットワーク「国際銀行間通信協会(SWIFT)」に再接続する―などの譲歩案も示したがロシアは応じていない。
ウクライナのゼレンスキー大統領は「ロシア抜きでも黒海回廊利用に必要なすべてのことをする」と述べたが、ペスコフ露大統領報道官は「合意停止以降は黒海での民間船の安全航行を保証しない」と述べた。卑劣極まる発言だ。
ウクライナは世界有数の穀倉地帯で小麦の輸出量は世界5位だ。ロシアがこのまま離脱し続けて輸出が滞れば、途上国の食料不足は一段と悪化しかねない。
米国のバイデン大統領は7月上旬、外遊先のフィンランドで「ウクライナの反転攻勢が前進し、どこかで交渉による解決を生み出す」と述べ、「プーチン大統領はすでに戦争で負けた」と強調した。
苦境に立つプーチン氏には、食料危機を煽(あお)り立てることで、ウクライナの領土を占領したまま、自国に有利な形で停戦交渉を始めたいとの意図もうかがえる。
プーチン氏は7月下旬、アフリカ諸国を集めた2回目の「ロシア・アフリカ首脳会議」を自国で開催予定だ。しかし、合意離脱で予測される穀物の供給不足や価格高騰は、首脳らの結束にも打撃を与えよう。ロシアは自らの暴走が、日一日と世界で反発を増やしていることを思い知るべきだ。
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2023年7月19日付産経新聞【主張】を転載しています