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ロシアのプーチン大統領が北朝鮮を訪問し、金正恩朝鮮労働党総書記との間で、有事の軍事的相互援助などを謳(うた)う「包括的戦略パートナーシップ条約」に署名した。
ウクライナを侵略するプーチン氏と核・ミサイル戦力強化に走る金氏という2人の独裁者による露朝同盟の成立である。
ウクライナ情勢の悪化を懸念するだけでは済まない。台湾有事、朝鮮半島有事への悪影響を含め、日本にとって両国の脅威が格段に高まるからである。岸田文雄政権は深刻に受け止め、北方の防衛態勢強化にも急ぎ乗り出してもらいたい。事態を国民に説明することも必要だ。
所要防衛力の再検討を
露朝両国は核武装し、平然と国際法破りを繰り返す専制国家である。隣国日本にとって、両国が軍事的に結託する危険性は、どんなに強調してもし過ぎることはない。
露朝の新条約の中身は正真正銘の軍事同盟である。朝鮮中央通信によれば、いずれか一方に対し、武力侵略行為となり得る直接的な脅威が確認されれば、「脅威を取り除く」ための実践的措置を遅滞なく協議すると定めた。さらに、一方が戦争状態になれば、国連憲章第51条が規定する集団的自衛権などに基づき、遅滞なく軍事的、またはその他の援助を提供すると約定した。
1961年締結の「ソ朝友好協力相互援助条約」とほぼ同じだ。同条約に基づく同盟は、ロシアが韓国と国交を結んだことで96年に失効していた。28年ぶりの同盟復活となる。
プーチン氏は「北朝鮮との軍事技術協力を排除しない」と述べ、金氏は「新たな高い水準の同盟関係に引き上げられた」「軍事分野を含む協力進展につながる」と強調した。
日本はさらなる抑止力向上を迫られることになった。
北朝鮮によるミサイル攻撃や朝鮮半島有事の展開次第では、自衛隊の防衛出動はあり得る。その際、ロシア軍の対日攻撃に備えざるを得ない。中国による台湾侵攻をめぐっても、北朝鮮軍が日米韓などへ陽動行動をとってくれば、ロシア軍がそれに連動して敵対行動を挑んでくる恐れがある。
台湾有事の際、自衛隊は北海道や本州の部隊を九州や南西諸島方面へ展開させる方針だが、ミサイル防衛を含め、北方など対露防衛へ十分な備えを残す必要性が高まったといえる。
林芳正官房長官は会見で「わが国を取り巻く安全保障環境に与える影響の観点から、深刻に憂慮している」と語った。
本当に憂慮するのであれば、実際の対応が欠かせない。岸田政権は安全保障関連3文書を改定して、相手国の軍事的「能力」に備える防衛力整備という現実路線へ転換した。露朝同盟の登場で、これまで必要と見積もった防衛力では十分に対応できるのか疑わしい。防衛省や国家安全保障局は所要防衛力を柔軟に見直すべきである。
首相は対応を表明せよ
非道なウクライナ侵略を激化させる恐れもある。
ブリンケン米国務長官は、プーチン氏訪朝をウクライナ侵略を続けるために、必要な武器を提供できる国との関係強化に必死になっていると批判した。
すでに北朝鮮は、ロシアに数百万発もの砲弾や弾道ミサイルなどを輸出した。ロシアは見返りとして、偵察衛星やロケットなどの高度な技術を供与しているとされる。露朝は同盟樹立を契機に兵器・技術取引を加速するだろう。
北朝鮮を相手とする武器弾薬の調達や供給は、ロシア自身も賛成した国連安全保障理事会決議への明白な違反だ。
金氏はプーチン氏との会談で、ロシアのウクライナ侵略への「全面的な支持と連帯」を表明した。
ロシアは自国をウクライナから攻撃されている被害者と言い張っている。このような歪(ゆが)んだ理屈に従って露朝の新条約を解釈すれば、北朝鮮が集団的自衛権を盾に、弾薬、ミサイルの供給を増やしたり、ウクライナの戦線へ北朝鮮軍を派兵したりすることが起きかねない。
北朝鮮による対露軍事支援も、ロシアによる北朝鮮の核・弾道ミサイル戦力の強化支援も世界の平和を乱すもので、到底容認できない。
岸田首相は記者会見などの機会を利用し、露朝同盟の危険性と日本の対応について、率直に語るべきである。
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2024年6月21日付産経新聞【主張】を転載しています