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岸田文雄首相は、首相公邸内での不適切な行動が批判された、長男で政務担当秘書官の翔太郎氏を6月1日付で辞職させると表明した。
事実上の更迭だが、対応が後手に回ったと言わざるを得ない。判明した時点で、即座に解任すべきだった。
週刊文春が最初に電子版で報じたのは5月24日である。厳重注意にとどめていた首相が一転して更迭を決めたのは、世論や与野党からの批判の高まりを受けてのことだろう。首相には任命責任があり、政治不信を招いたことを反省しなければならない。
週刊文春によると、翔太郎氏は昨年12月に公邸内で親族ら10人以上と忘年会を開いた。
その際、組閣の記念撮影にも使われた、赤じゅうたんが敷かれた階段で集合写真を撮り、翔太郎氏は前列中央に立っていた。
まるで「組閣ごっこ」に興じているように見える。首相やその家族が居住する公邸内とはいえ、外国要人らを招く行事にも使われる公的スペースである。30歳を超えた人物による思慮を欠いた行動で、あまりに子供じみている。
さらに親族の一人は階段で寝そべったり、首相が記者会見で使う演説台で男女がポーズを取ったりしている写真もあった。
「公私混同」とのそしりは免れない。
翔太郎氏をめぐっては、今年1月の首相の欧米歴訪に同行した際に、滞在先で観光や土産購入に公用車を利用していたと週刊新潮が報道し、批判された。
秘書官に親族を起用することは否定しない。だが、世襲には厳しい視線が注がれている。首相は翔太郎氏により厳格に接し、翔太郎氏も自らの振る舞いを厳しく律すべきだった。それができておらず、政治に最も大切な国民の信頼を損ねる結果となった。
翔太郎氏は退職手当や期末・勤勉手当の返納を申し出た。責任をとって辞職する以上、当然である。同時に報道陣を前に自らの言葉で謝罪すべきである。
国会は終盤を迎え、防衛費増額の財源を確保するための特別措置法案などの重要法案を審議中である。来年度予算の編成に向けた経済財政運営の指針「骨太の方針」の策定も控えている。
政府・与党は改めて緊張感をもって万全の政権運営にあたらねばならない。
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2023年5月31日付産経新聞【主張】を転載しています