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北大西洋条約機構(NATO)が検討してきた東京への連絡事務所設置に、加盟国であるフランスが待ったをかけた。
英有力紙フィナンシャル・タイムズ紙が、マクロン仏大統領が開設に反対していると報じた。セトン駐日フランス大使は「東京事務所開設は賛同しかねるが、NATOと日本の協力関係を強化することが重要だ」とコメントした。
このようなフランスの立場は理解しがたい。連絡事務所の開設さえ尻込みするようでは、日本とNATOの協力が深化するとはみなされまい。今後、日本とNATOが協力して中国の「力による現状変更」を抑え込もうと声をあげても鼻で笑われるだけだ。
同紙によると、マクロン氏は「NATOの活動範囲を拡大すれば、大きな過ちを犯す」と語ったという。
フランスが中国の脅威の高まりから目をそらす姿勢をとれば、インド太平洋と欧州の安全保障は不可分とする先進7カ国(G7)の結束は乱れる。
中国が、自由と民主主義を掲げる台湾を併呑(へいどん)してしまうなど覇権を拡大していけば、悪影響が欧州にも必ず及ぶとマクロン氏は気付くべきである。ロシアがウクライナ侵略に成功すれば、日本をめぐる安全保障環境が悪化するのと同じことだ。
マクロン氏は、世界の平和と安定に責任を持つフランスの指導者として、中国を恐れる姿勢をとるべきではない。翻意して東京事務所の開設を認めてもらいたい。
日本とNATOは今年1月の共同声明で、力による一方的な現状変更は世界のいかなる場所でも認められないと強調した。マクロン氏も加わった5月のG7広島サミットは首脳声明で、「台湾海峡の平和と安定の重要性」を再確認している。
フランスはこれまで、海軍艦船を日本に派遣したり、日本を舞台に自衛隊とフランス陸海軍との共同訓練を行ったりしてきた。多くの日本国民は、インド太平洋の平和と安定に関心を寄せるフランスの姿勢を歓迎してきた。
一連の努力も東京事務所への反対を貫けば台無しになる。マクロン氏には、このままでは日本のフランスへの尊敬と期待が損なわれることにも気付いてもらいたい。覇権主義的な中国政府を喜ばせてはならない。
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2023年6月13日付産経新聞【主張】を転載しています