NPT再検討会議の最終日の会合で演説する
ロシア代表を映すスクリーン
=8月26日、米ニューヨーク(共同)
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国連本部で開かれていた核拡散防止条約(NPT)再検討会議は、ロシアが最終文書の採択に反対し、決裂した。
NPTによって核兵器保有を認められているロシアが核を放棄したウクライナを侵略し、核で恫喝(どうかつ)している。それがNPT体制を根幹から揺るがしている厳しい現実を、会議の決裂は改めて示した。
採択できなかった最終文書案は、ロシア軍が占拠するウクライナのザポロジエ原発について「ウクライナ当局による管理が最も重要である」と明記していた。ウクライナが旧ソ連から引き継いだ核兵器を放棄したのと引き換えに、米英露の3核保有国がウクライナの安全を保障した1994年の「ブダペスト覚書」にも言及していた。ロシアがこの国際約束を破って侵略し、核恫喝までしている問題を念頭に置いたものだ。
ロシアは最終文書案に猛反発し、文書の採択が全会一致である原則を利用して、決裂に追い込んだ。到底容認できない。
NPTは核兵器を保有しない国に原子力の平和利用を認めている。ロシア軍の原発占拠はNPTをふみにじるものだ。ロシアはザポロジエ原発をはじめウクライナから直ちに撤兵すべきである。
再検討会議の足を引っ張ったのはロシアだけではない。中国もそうである。最終文書案では、濃縮ウランや、プルトニウムなど核兵器生産用核分裂性物質(FM)生産のモラトリアム(一時停止)を求める項目が、中国の要求で削除された。
NPTが核兵器保有を認める米露英仏中の5カ国のうち、中国だけがFM生産の一時停止を宣言していない。中国に核軍拡を進める底意があると見なされても仕方あるまい。
再検討会議は前回2015年に続いて決裂した。建設的な核軍縮を進めることは困難で、NPT体制再構築の見通しは立たない。NPTに飽き足らない国による核兵器禁止条約があるが、全ての核保有国が背を向けるなど、核軍縮の進展には寄与しない代物だ。
再検討会議の決裂を嘆いている今この瞬間も日本は中露、北朝鮮の核の脅威にさらされている。
岸田文雄政権には、国民を守る核抑止を確かなものにする責任がある。それには、日本に「核の傘」をさしかける同盟国米国との協力が欠かせない。
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2022年8月28日付産経新聞【主張】を転載しています