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日本製鉄が計画している米鉄鋼大手USスチールの買収計画に対し、米国で反発が広がっている。
11月の米大統領選で返り咲きを狙うトランプ前大統領は1月末に「私なら即座に阻止する。絶対だ」と述べた。買収に反対する全米鉄鋼労働組合(USW)も今月に入り、「バイデン大統領が背中を押してくれる確約を得た」との声明を発表した。
これに対し、2月7日に会見した日鉄の森高弘副社長は米国側と対話を続けていくとし、予定通り9月までの買収完了を目指す考えを示した。
森氏は米国内の反発は「想定内の反応だ」とも述べたが、認識が甘くないか。
鉄は自動車をはじめ多くの工業製品に欠かせない基礎素材だ。国家安全保障にも関係する重要産業であるため、米国ではこれまでも保護主義的な政策がとられてきた。今後、買収計画が一層、政治問題化すれば、日米関係に影響する可能性も否定できない。
日鉄は、買収後もUSWとの労働協約を守ることを表明してきたが、米国の反発は収まっていない。このままでは米規制当局の審査で買収が認められない可能性があるとの危機感を持って交渉にあたり、米国側の懸念払拭に最大限の努力を払い続けてほしい。
今回の買収計画は昨年12月に発表された。約2兆円という巨費を投じUSスチールを完全子会社化し、拡大を続ける米国市場の需要を取り込む狙いだ。
米中対立が続く中で、同盟国である日米の鉄鋼メーカーが手を組む意義は大きい。
鉄鋼業界では、中国メーカーの過剰生産による鋼材が海外市場に流れることで国際市況が悪化し、日本や米国などの鉄鋼メーカーの収益にも影響を及ぼしてきた。中国メーカーに対抗する国際競争力を得るには規模拡大は欠かせない。
電気自動車(EV)向けに需要拡大が見込まれる電磁鋼板など高機能製品の供給体制の強化も期待できる。この分野では日鉄が高い技術力を持っている。日鉄の完全子会社となれば、技術の共有などを通じUSスチールの競争力も高まるはずだ。
USWや買収審査を担う対米外国投資委員会(CFIUS)はこうした点も考慮に入れ、冷静な判断をしてほしい。
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2024年2月12日付産経新聞【主張】を転載しています