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国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第1作業部会による「第6次報告書」が8月9日、公表された。地球温暖化の現状や将来予測についてまとめた内容だ。
IPCCは1990年の第1次報告書以来、気候変動は人類の活動が引き起こしたものとする警鐘を鳴らし続けている。
その論調は回を追うごとに深刻度を強めており、今回は現状について「人間の影響が大気、海洋および陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。大気、海洋、雪氷圏および生物圏において広範囲かつ急速な変化が現れている」と断定した。
パリの目標に赤信号だ
将来予測では「向こう数十年の間に二酸化炭素などの温室効果ガスの排出が大幅に減少しないかぎり、21世紀中に地球温暖化は1・5度および2度を超える」とし、今世紀半ばでの排出量のピークアウトを求めている。
化石燃料に依存した開発が続く場合には、2021~40年の間に気温は1・3~1・9度上がり、今世紀末には3・3~5・7度の上昇になるとしている。
昨年から運用が始まった地球温暖化防止の国際ルールである「パリ協定」の目標に照らすと、今回の予測は重大だ。
今世紀末までの世界平均気温の上昇幅を産業革命以前に比べて2度未満、できれば1・5度に抑えることがパリ協定の主題であるのに、今後20年以内に1・5度を超える可能性が示されたのだ。
前のめり感はあるが、IPCCの影響力は大きい。異常気象も多発している。10月末から英国で開かれる気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)では、パリ協定の下でのさらなる温室効果ガスの排出削減に向けての国際交渉が熱を帯びることだろう。
IPCCの今回の報告書に率先して対応すべきは中国である。中国の二酸化炭素排出量は世界全体の約3割を占め、世界1位であるだけでなく、2位の米国に倍する突出した規模だ。
にもかかわらず、中国は今後9年間、二酸化炭素の排出増を続けることを公言している。さらには中国から低効率の石炭火力発電が途上国に広まる可能性もある。
中国が舵(かじ)を切らないかぎり、大気中の二酸化炭素濃度の増加は止まらない。習近平国家主席が今回のIPCCの報告書の警鐘を馬耳東風で聞き流すことのないよう、COP26での先進各国による強い説得を期待する。グレタ・トゥンベリさんにもぜひ、一役買ってもらいたい。
日本にも報告書の影響は及ぶ。菅義偉政権は今年4月、バイデン米大統領に促される形で30年度の削減目標を、従来の26%減から46%減(ともに13年度比)に引き上げたが、現状では化石燃料を使う火力発電が全発電量の8割近くを占めている。このままではCOPでの批判を免れない。
日本の脱炭素は原発で
政府は太陽光や風力発電の大幅拡大を計画しているが、変動電源なので火力発電のバックアップは減らせない。国際的な脱炭素の流れに沿うためには、国が前面に立っての原発再稼働促進が急務である。50年のカーボンニュートラルに向けては次世代原発・高温ガス炉の実用化を進めるべきだ。
IPCCの活動とCOPでの議論については気がかりな点がある。進行中の気温上昇の原因を二酸化炭素などの温室効果に限定しているように見えるが、それでよいのだろうか。
現在は19世紀末までの200年間にわたった小氷期からの回復途上にあり、気温上昇はその結果と解釈する学説がある。
太陽磁場の活動度と地球の気温の関係に注目した研究もある。地球は宇宙の一部なので気候変動の科学は複雑系の最たるものだ。
スーパーコンピューターの中に作った仮想地球での計算結果は有用でも完璧ではないはずだ。気温を上げたり、下げたりする雲の影響を反映することの難しさが以前から指摘されている。
地球の気候には長い変動の歴史がある。南極の氷や湖底の堆積物などからその変遷を読み解く地道で重要な研究が行われている。垣間見える変動はさまざまだ。
気候科学に全体主義の影が差すことはあってはならない。温暖化問題は国際覇権や経済戦争と表裏一体の関係にあるので、この点への留意が極めて重要だ。
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2021年8月11日付産経新聞【主張】を転載しています