ポストコロナの新しい日常の中で、美術館はどう変わっていくのだろうか。森美術館(東京・六本木)の館長であり、国際美術館会議(CIMAM)会長も務める片岡真実さんに聞いた。
◇
オンライン予約、浸透
―森美術館は31日に再開し「STARS展‥現代美術のスターたち―日本から世界へ」が開幕する。入場者数を管理し密を避けるため、日時指定のオンライン予約制とする館が増えている。「STARS展」でも導入する
ソーシャル・ディスタンシングはコロナをめぐる状況次第で緩和もありえますが、オンライン予約の普及は加速するでしょう。地方の美術館では来場者の年齢層が比較的高く、窓口でチケットを買いたい方が多いと聞きますが、都市部を中心に浸透するでしょう。
―美術館は観覧料に依存する部分が大きい。入場者数を制限すると採算と折り合わないことも
例えば、展覧会の会期を長くする。『STARS』展も来年1月3日までとし、来年度以降も展覧会本数を年間2本くらいとし会期を長期化することにしました。展覧会の本数を減らし制作費など投資を抑える。一つの試みです。
―企画力が問われる
その通りです。人が入らない展覧会は、会期を長くしても入らない。長期化に耐えうるコンテンツの強さが求められる。
―観覧料が全体的に上がる可能性は?
あるかもしれません。これまで行列しないと見られなかったものが、余裕を持って鑑賞でき、体験の質が上がるとも言える。いずれにせよ今後は各館が、会期や開館時間、料金などいろんな部分を調整しつつ、持続可能な経営モデルを模索することになる。
コレクション重視へ
―コロナで国際的な企画展のリスクも顕在化した
日本の美術館は企画展重視の傾向がありますが、コレクションや常設展をより充実させて『いつもこの作品があるから行く』という場に転換を試みてもいい。例えば国内各館が所有する、ある作家やある分野の〝ベスト・オブ・ベスト〟を集めて巡回させるなど、収蔵品を生かした企画も考えられる。とはいえ森美術館は『国際的な現代美術館』。世界の動向を反映した企画も続けます。
リアルとオンラインと
―臨時休館中、デジタル・コンテンツを発信・提供する館も目立った
オンライン・プログラムは、映像作品やトークなどの記録を公開するものと、観客に何かをつくる提案をするコンテンツに大別できる。外出自粛中の人々へ多くの館がコンテンツを無料提供していましたが、実は制作にも結構お金がかかる。質を保つには今後、有料化もやむを得ないのかなと思います。
―具体的には
展覧会チケットとオンラインの有料プログラムの連動は考えたい。例えば映像作品の展覧会は、時間的に全部見るのは難しい。会場の大空間で見る醍醐味(だいごみ)も体験でき、かつ全体のストーリーをオンラインで追える。そんなリアルな展覧会とオンライン・プログラムの連動はアリでしょう。
芸術の力を示すとき
―世界の近現代美術館関係者が集まるCIMAMの会長でもある
オンライン会議で国際的な情報共有を進めています。コロナ禍でさまざまな社会システムが一旦停止を余儀なくされたことで、これまで見えなかった社会構造の脆弱(ぜいじゃく)な部分が表面化してきた。(黒人差別解消を訴えるスローガン)『ブラック・ライヴズ・マター』をめぐる動きもそう。美術館としても、こうした社会的課題を直視し取り扱わざるを得ない状況になる。今後アーティストの作品にも反映されていくでしょう。
聞き手:黒沢綾子(産経新聞)