御代替(みよが)わりと台風による大規模風水害の印象が強かった令和元年も残り1カ月となった11月末、遅ればせながら新刊「反日種族主義―日韓危機の根源」日本語版(文芸春秋)を手にした。韓国で10万部以上売れているが日本ではそれを上回る勢いだという。Amazon(アマゾン)で注文から2週間もかかった。
「嘘をつく国民」と題したプロローグの第1項で「韓国の嘘つき文化は国際的に広く知れ渡っています」と始まる作品は、日本でもインパクトがある。
プロローグの小項目は、「嘘をつく政治」「嘘をつく学問」「嘘をつく裁判」と続く。そこで編著者は情緒的な記述に逃げず、韓国では2014年に偽証罪で起訴された人の数が日本の172倍(1400人)に上る―など、根拠を明示する。この作品が興味深いのは、韓国の経済史学者らが自国の民族や国家を「嘘つき」と書いた本に、なぜ多くの韓国人がひきつけられたのかという点だ。
小欄でも触れてきたが、このベストセラー現象には現在の韓国の政治や社会のありようが関係している。文在寅(ムン・ジェイン)政権は「親日清算」を政策として掲げ、大声で叫ぶがあまり、嘘に基づく対日認識が政策面で矛盾や弊害となって噴出して収拾がつかなくなっている。
行き過ぎた〝虚偽の政治〟の結果、むしろ韓国側が一方的に対価を払って経済、外交、安全保障に至る危機に追い込まれた―。その根源的な理由を知りたいと願う人がベストセラーを支えているのではないか。
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作品は編著者らが動画投稿サイトで主張してきた内容を活字化したものだ。視聴者には文政権の発足直後は支持者だった人も多い。
作品に対しては文大統領の側近で法相を辞任した曺国(チョ・グク)氏が早々に「附逆(反民族的)、売国親日派という以外に何と呼ぶべきか分からない」と編著者の李栄薫(イ・ヨンフン)氏を個人攻撃。政権や左派系メディアを含む支持勢力が、全面否定にかかった。共同執筆の6人は国家権力ににらまれた上、不法侵入や暴行の被害に遭った人もいる。命がけの出版だ。
左派系紙ハンギョレは日本語版の出版を前に「日本人が誤った歴史観を深めて、歪曲(わいきょく)された歴史観が日本社会に拡散する」と非難したが、作品内容への反証や指摘は説得力を持たなかった。日本非難は、証拠より論なのだ。
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開催国として五輪・パラリンピックを成功させなければならない来年を目前に控え、一部とはいえ韓国側に「ボイコット論」が持ち上がるなど、成功阻害リスクともなりかねない中で、韓国とどのように向き合うべきかを考えるのは有意だ。
日本側で最近、韓国の対日認識への〝処方箋〟について知恵を絞る動きが出ている。ソウルの日中韓協力事務局長、道上尚史・前釜山総領事が文芸春秋10月号に寄せた論考は興味深い。
道上氏によると、多くの韓国人は「日本の市民はみな韓国が好きだ」と認識する一方で、慰安婦問題や「徴用工」問題などは小さな問題であり日本人は気にすべきではないと、押しつけがましくも思い込んでいるというのだ。
その誤解が日韓すれ違いの根源だと看破した道上氏は、「日本の市民はみな韓国が好き」という韓国側の「的外れの楽観論」を排することが重要と考える。
筆者にも韓国の市民団体や政府、検察と激しくやりあった経験があるが、道上氏とまったく同じ見解だ。
ビジネスマンも学生もできれば旅行者も、韓国人との対話で「徴用工」などの話題が出たら、ただ笑顔で応じていてはだめだ。日本国民がいまの韓国にいかに大きく失望しているか、はっきり伝えることである。そこで初めて韓国側の日本理解が始まるのだろう。
筆者:加藤達也(産経新聞)
12月3日付産経新聞【加藤達也の虎穴に入らずんば】を転載しています