人々を笑わせ、考えさせられる研究や業績を残した研究者や団体に贈られるイグ・ノーベル賞。〝本家〟のノーベル賞では今年、残念ながら日本人受賞者は出なかったが、その裏でイグ・ノーベル賞は今年も京都大の准教授が栄誉に輝くなど、14年連続で受賞している。なぜ、日本人が多いのか。
14年連続26回受賞
ノーベル賞の「ノーベル」に否定を表す接頭語「イグ」をつけたイグ・ノーベル賞は1991年、米国の雑誌編集者らが創設。「ホッキョクグマに変装した人間に対するトナカイの反応」などユーモアにあふれたものが多いが、2013年には公共の場で拍手喝采を禁止したベラルーシの大統領に平和賞が贈られるなど、社会問題を強烈な皮肉でとらえたものもある。
日本は、開催地の米国を除くと人口あたりの受賞者が英国と並んで最も多い「常連国」だ。外国との共同受賞を含めると14年連続、計26回におよぶ。
初受賞は1992年。足の臭いの原因となる化学物質を突き止めた資生堂の研究者らが医学賞を受賞した。タカラ(現・タカラトミー)などが開発した犬の鳴き声を人間の言葉に〝翻訳〟する機械「バウリンガル」が「愛犬と人間との相互理解を深めた」として平和賞を受賞したほか、カラオケ(平和賞)や「たまごっち」(経済学賞)など、日本発の独創的な商品も受賞している。
今年は、ワニにヘリウムガスを吸わせて鳴き声の周波数を測定する実験を行い声が変化することをオーストリアの研究者らとともに確認した京都大霊長類研究所の西村剛准教授(45)=生物音響学=が、音響学賞を共同受賞した。
研究結果からは、鳥類やワニの共通の祖先である恐竜も、かつて共鳴によって「声」を出していた可能性が浮かび上がるという。西村氏は「おもしろい研究は本当は山のようにある。スポットライトが当たったのはうれしい」と語った。
「才能の無駄遣い」
「日本は、変わった人が変わったことをすると『その人を生んだのはこの土地だ』と喜ぶ風土がある」。イグ・ノーベル賞の創設者の一人で雑誌編集者のマーク・エイブラハムズ氏は、2018年に来日し日本科学未来館(東京都江東区)で講演した際、日本人に受賞者が多い理由について、こうコメントした。
同館の科学コミュニケーター、山本朋範(とものり)さん(42)は「日本には『才能の無駄遣い』という言葉がある。けなしているように聞こえるが、レベルの高さを称賛するほめ言葉として使われることもある」と、人の評価を気にせず物事に打ち込む人を評価する土壌が日本にあることを要因に挙げる。
「『なるほどな』と、くすりと笑える、知の本質がある」。2005年に栄養学賞を受賞した発明家のドクター・中松さん(92)は、イグ・ノーベル賞についてこう話し「知的におもしろい、ということを研究の軸にしてほしい」と、後進の研究者らにエールを送った。
筆者:橘川玲奈(産経新聞社会部)