エネルギー系ベンチャー企業、パワーエックスの伊藤正裕CEOがJAPAN Forwardの単独インタビューに応じ、日本の先進的な再生可能エネルギーが果たす重要性と革新的な未来の姿について語った。
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Masahiro Ito, CEO of energy startup PowerX on September 5 at the PowerX headquarters in Minato Ward, Tokyo. (©JAPAN Forward by Hidemitsu Kaito)

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エネルギー系ベンチャー企業、パワーエックスの伊藤正裕CEOがJAPAN Forwardの単独インタビューに応じ、日本の先進的な再生可能エネルギーが果たす重要性と革新的な未来の姿について語った。 

 

パワーエックスは2021年に創業したエネルギー系のベンチャー企業。産業用の先進的な大型蓄電池や蓄電池を積んだ「電気運搬船」事業で世界のエネルギー問題にチャレンジしている。パワーエックスの取り組みは日本のエネルギー政策の経済安全保障の重要な解決策にもなり、政府が目標とする2050年までのカーボンニュートラルの目標達成にもつながる。同社の注目点は、大型の蓄電池システムと、世界に先駆けた「電気運搬船」事業だ。

 

2026年に運行を予定している「電気運搬船」は、20フィートのコンテナ型の蓄電池を96個搭載し、240MWhの電力を供給できる洋上の電池だ。太陽光や風力で作られた再生可能エネルギー(電気)を洋上から送り届けることができる画期的な手段で、これまで海底ケーブルを使用していたコストがかかる手段に代わるメリットがある。

 

また、同社が手掛ける電気自動車(EV)の蓄電池型超急速充電器は、日本国内のアウディやBMWという自動車会社の販売店にも導入が進んでいる。

 

インタビューで伊藤CEOは、パワーエックスの事業の柱や優位性、自身の起業家精神について語った。

 

IT企業からグリーンエネルギーの世界に

IT企業のリーダーから、再生可能エネルギー企業のパワーエックスを起業するに至った経緯は?

 

前職のZOZOはファッションの小売り企業でZOZOTOWNという通販を行っていました。上場企業として投資家からはESG(環境・社会・ガバナンス)重視の観点から見られていました。こうしたことから、クリーンエネルギーを意識するきっかけになりました。ちょうど日本政府が2050年までにカーボンニュートラルの目標を定めたことも後押ししました。とは言っても、その目標達成には太陽光発電か原子力発電で対処するしかありません。

 

そこで思いついたのが、電池を搭載した船で、洋上で発電した電気を蓄えて輸送するという事業の発想です。こうすることで、これまで行っていた難易度が高い海底ケーブルの敷設作業が不要になります。エネルギーを蓄積する必要が高まる中で、電池の重要性を認識してこのビジネスに移る決意に至りました。大規模容量の蓄電池システムを最初のビジネスとして選び、ZOZOを離れてパワーエックスを2021年に創設しました。私の目標は、クリーンエネルギーを蓄積して送り届ける革新的な解決策を生み出すこと、社会の要求に応え、末長く続くビジネスに尽力することです。

 

パワーエックスの主要ビジネスとは?

パワーエックスは事業の9割が蓄電池です。主要製品は、「Mega Power」という20フィートコンテナサイズの大容量の蓄電池と、「PowerX Cube」という中型サイズの蓄電池です。蓄電池を備えたEVの急速充電器として「Hypercharger」もあります。

 

「Mega Power」蓄電池。20フィートコンテナサイズで2.7MWhの大容量がある。(写真提供:パワーエックス)

 

この他に「PowerX app」というアプリもあります。これは、「Hypercharger」のステーションをアプリで選んで予約できるもので、充電ステーションは現在国内で20カ所程度ですが、2024年末までに100カ所近くまで増える予定です。

 

私たちはBMWやアウディという自動車メーカー販売店とも提携して「Hypercharger」を導入していただいています。最近では、麻布台ヒルズのBMW販売店や千代田区のアウディ販売店に設置されました。「PowerX app」は無料です。

 

大容量蓄電池の主な用途と直近の導入例は?

大容量蓄電池は2種類のカテゴリーがあります。1つはFTM(Front- of -the-Meter)という、電力供給者側に設置されるもので、もう1つはBTM(Behind-the-Meter)と呼ばれる、電力消費者側が自家消費用に設置するものです。

 

大型物流施設に設置されたMega Power のBTM例(写真提供:パワーエックス)

 

BTMは工場や物流施設に適しています。施設の屋根に設置した太陽光発電パネルとの併合で節電でき、CO2の排出も削減できます。蓄電で電力消費のピーク時を自家発電で賄えます。センコーやプロロジスという大型倉庫が採用しています。

 

一方、市場が大きいのはFTMです。 日中は太陽光発電の力で安く電気を蓄えて、夜間に高く電気を売ることができ、需要と供給に応えることができます。今年出荷する電池の6〜7割がFTMの見込みです。

 

世界初の大容量蓄電池を積んだ「電気運搬船」の狙いは?

2026年に初号船が就航予定の「電気運搬船」(事業会社は、海上パワーグリッド)の計画は挑戦です。「電気運搬船」はまさに世界初の試みです。

 

風力発電で得た電気を従来だと、コストが高く難易度が高い海底ケーブルを敷いて陸上に輸送する方式ですが、船だとその必要はありません。船に蓄電池があるので、そこに蓄え、目的地まで電気を輸送し、地上に供給することができます。この方法は島国に適しています。

 

計画では、沖合300kmくらいまでの風力発電所が対象です。発電で得た余剰電力を需要がある地域に輸送できます。コストのかかるケーブルを余計に施設する必要がありません。日本以外にも適用できる可能性があり、離島での電力供給や、地震が多い日本では被災地に海上から電気を供給することもできます。

 

再生可能エネルギーへの投資が活発な国々に対し、パワーエックスの勝算は?

パワーエックスの優位性は、製品の販売後のメンテナンスとサポート体制です。蓄電池市場では中国が独占していますが、我が社はアフターセールスのサポートに力を入れています。20フィートのコンテナサイズの蓄電池は自社で製造し、メンテナンスやサポートにも迅速に対応します。外国メーカーでは修理に時間がかかったりすることもありますが、我が社では責任を持って迅速に対応できます。

 

パワーエックスの中型蓄電池「PowerX Cube」小型店舗などに最適(写真提供:パワーエックス)

 

価格面でも、私たちの電池は中国製と競争できます。お客様にとって、サポートも早く信頼できる日本製が価値があるのではないでしょうか?外国製に頼らない、自国で賄えることで、経済・安全保障上も安心なグリーンエネルギーとなるのではないでしょうか? 

 

事業に必要な資金調達は?

私たちはすでにさまざまな企業から融資で約230億円の資金調達を達成しています。現在はその第3段階で、およそ60億円の資金調達段階中です。トータルで300億円弱を計画しています。私たちの事業には十分な金額です。工場や商品開発、サービスセンターの建設などに充てます。現在、蓄電池製品の量産体制に入っています。今後は事業展開で成長していく段階です。

 

今後のパワーエックスの成長策は?

パワーエックスは日本のエネルギー政策と市場余地により大きく成長すると考えています。経済産業省と政府の予測では、蓄電池市場は2040年までに125GWh、10兆円規模になると見られています。我が社はそのうちの3割から5割を狙いたいと思います。

 

私たちは日本での存在感を高めることと、オフィスビルに離れた場所に設置した蓄電池から電気を供給する垂直型のサービスも拡大します。PPA(Power Purchase Agreement)で電気を販売するのです。EVチャージャーまで含めて、エネルギーカンパニーとして、蓄電池という資産を使った、今までにできなかったクリーンエネルギーの販売やサービスを提供できる会社を目指したいのです。

 

 EV充電器「Hypercharger」(写真提供:パワーエックス)

 

国外では、日本と似た地形ではパワーエックスの製品は相性がいいのではないでしょうか?電池市場で中国が優勢ですが、我々にも勝算がある国があるのではないでしょうか?例えば、電池付きEV充電器は我々が先行しているので、競争力があります。欧州や米国での販売を行うとか、製品別の戦略が考えられます。こうした成長戦略を今後10年、しっかりやっていく方針です。

 

起業家としての人生、そして今後の目標は?

私の起業家としてのスタートは高校生の時でした。科学が好きだったことと、ポジティブなインパクトがある事をしたい、という願望がありました。最初の起業は2000年(伊藤さんは1983年生まれ)でした。発明家、起業家として、革新的な発想をビジネスに取り入れてきました。

 

それが電気運搬船でもあり、先進的な蓄電池でもあるのです。ポジティブなインパクトを最大限、社会に残せる可能性があります。電気運搬船は私の死後にも社会の役に立つ可能性がある発明だと思っています。

 

筆者:ダニエル・マニング

 

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