「戦争反対!」と書かれた紙を掲げるデモ隊。同様の抗議行動はロシアの他の都市でも行われた
=24日、ロシア・サンクトペテルブルク(AP)
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今年の直木賞の候補作となった逢坂冬馬さんの『同志少女よ、敵を撃て』は、1941年に始まった独ソ戦を題材としている。第二次世界大戦のなかでもことさら凄惨(せいさん)を極めた戦いだった。
モスクワ近郊の小さな村がドイツ軍に襲われ全滅する場面から物語が始まる。母親を目の前で射殺された18歳の少女セラフィマは、ソ連軍の女性兵士イリーナに救われる。「お前は戦うのか、死ぬのか」。イリーナの問いに、セラフィマは答える。「敵を皆殺しにして、敵を討つ!」。
ロシアのプーチン大統領は、ついにウクライナへの全面攻撃に踏み切った。すでに親露派武装勢力が実効支配している東部2地域の独立を承認し、派兵を決めていた。もっともプーチン氏の野望は、最初からウクライナ全土に向けられていたようだ。
ロシア軍は昨日、首都キエフの軍司令施設や北東部ハリコフの軍事施設に巡航ミサイルを撃ち込んだ。南部のクリミアからは軍事車両が侵入している。キエフの中心部では空襲警報が響いている。
ロシア側はウクライナの「非軍事化」が目的であり、民間人を脅かすものではないとしている。戦争を仕掛けておいて、冗談ではない。確かにロシア軍の圧倒的な兵力を前にして、ウクライナ軍に勝ち目はない。しかし、最後まで抵抗はやめないだろう。まさに「敵を皆殺しにして、敵を討つ!」。士気が衰えることはない。
昨日のコラムで書いた。ウクライナへの侵攻はどんな勝者も生まない。多くの血が流れた後には憎しみが残るだけだ。それを承知のプーチン氏には何も言うことはない。ロシア国民に訴えたい。ともにボルシチを愛する兄弟のような存在の人々が、ロシア軍に蹂躙(じゅうりん)されるのを黙ってみていられるのか。
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2022年2月25日付産経新聞【産経抄】を転載しています