Ryoyu Kobayashi leaps to the 19th round of the world cup - mens (Kyodo)

Ryoyu Kobayashi leaps to the 19th round of the world cup - mens (Kyodo)

~~

 

北京冬季五輪のスキージャンプ男子で金メダル獲得が期待される小林陵侑(りょうゆう)選手は、空中で風を受けて体を持ち上げる揚力がジャンプ後半に増加し、飛距離につながっていることが、スーパーコンピューター「富岳」を使った分析で分かった。富岳を運用する理化学研究所などの研究チームが4日発表した。研究者らは「小林選手の強さが科学的に裏付けられた。五輪でも自信を持って飛んでいただきたい」と太鼓判を押した。

 

スキーのジャンプは揚力のほか、風を受けて減速する空気抵抗の力である抗力、気流の乱れといった空気の力に選手の動作や姿勢、体格といった条件が複雑に絡み合う。コンピューター上で高精度にシミュレーション(模擬実験)するには膨大な計算が必要だが、富岳を使うことで可能になり、一流選手の強さの秘密の一端が解明された。

 

小林陵侑選手の背面では気流の乱れが少ない(北翔大、神戸大、理化学研究所提供)

 

研究チームは、人の動きを読み取ってデジタルデータにする「モーションキャプチャー」の技術を使って、小林選手と比較する一般選手のジャンプを計測。それを基に3次元のCGアニメーションを作成し、さらに富岳を使って選手の体の周りに働く空気の力をシミュレーションした。

 

小林選手は踏み切り直後から体をピンと伸ばした姿勢が特徴だが、ジャンプの初期段階では風の抵抗を受けやすく、ジャンプに不利とみられてきた。それにも関わらず遠くに飛ぶため、関係者の間でも「なぜあんなに飛べるのか」と不思議がられている。

 

今回のシミュレーションでも、比較した選手と比べて小林選手は踏み切り直後に抗力が急増していた。しかし、すぐに減少に転じ、その後の飛行局面では抗力が抑えられていることが分かった。素早く体を前傾させて飛行姿勢を安定させる小林選手のスタイルがこうした結果につながっているとみられる。

 

さらに、比較した選手の揚力はジャンプ後半に向かって減少するのに対して、小林選手は増加していくことが分かった。ジャンプの序盤で前方から受けていた風の向きは、終盤では下方からに変わる。このため抗力が増し、揚力が急減する「失速」の状態になると考えられるが、小林選手は細かな姿勢の制御などで揚力を生み出し続けているとみられる。

 

ジャンプ後半の空気の流れを分析すると、比較した選手に比べて背面の気流の乱れが少なく、上向きの力が生まれていることも分かった。

 

比較対象の選手の背面では気流が大きく乱れている(北翔大、神戸大、理化学研究所提供)

 

チームの山本敬三・北翔大教授(運動力学)は「小林選手の飛び方が最適解なのではない。各選手の個性に合わせたコーチングにつなげたい」と話した。今後は選手ごとに体格や動作、姿勢、スキー板といった用具の特性なども加味した分析で、競技成績の向上に貢献することを目指す。

 

シミュレーションの計算には富岳を使っても一晩かかるのが現状だが、ソフトウエアを最適化するなどして高速化する計画だという。将来的には、実際の大会で1回目のジャンプを計測してシミュレーションし、2回目の前に選手にアドバイスできるようなシステムの構築が目標だ。坪倉誠・神戸大教授(流体工学)は「富岳だからこそ描ける夢だ。膨大なパターンを高速にシミュレーションし、AI(人工知能)に提案させるといったことも考えられる」と話した。

 

 

この記事の英文記事を読む

 

 

コメントを残す