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全国各地で梅雨入りし、これから秋の台風シーズンまで豪雨が発生しやすい時期が続くが、国土交通省は自動操縦の小型無人機「ドローン」を豪雨災害などの対応に積極的に活用する方針だ。国交省は今月、3時間超にわたる連続飛行の実証実験に成功。ドローンの長時間飛行により、土砂災害の現場や氾濫する河川の状況をより詳細かつ迅速に把握することができ、被害の拡大を食い止める効果が期待される。
5月21日午後、さいたま市桜区の荒川河川敷。ドローンに携わる民間企業や国交省の関係者ら約60人が固唾(かたず)をのんで上空を見上げていた。拡声器から「3、2、1」というカウントダウンが聞こえると、約3時間の飛行を終えたドローンが無事、着陸。国交省として初めての長時間連続飛行の達成に拍手がわき起こった。
これまで災害時などに活用されてきたドローンは搭載できるバッテリー容量が少なく、1回10~20分程度の飛行が限界だった。実証実験に参加した国交省の佐藤寿延(ひさのぶ)技術審議官は「災害現場の近くまでドローンを運ぶ必要があったが、このドローンなら直接災害現場まで飛行することができる」と期待する。
長時間飛行できるドローンはガソリンを燃料に発電機を回し、その電力でモーターを駆動するハイブリッド式。約11時間連続飛行できる性能を有する。
ドローンはリスクなどに応じてレベル1~4の飛行形態があり、実証実験は操縦者の目が届かない無人地帯での自動操縦を想定した「レベル3」で実施した。
河川敷の一角に設置されたモニターには、ドローンに搭載したレーザー計測器で測量した河川や地表の3次元データが表示されていた。ドローン用計測機器を開発するアミューズワンセルフ(大阪)の冨井隆春CTO(最高技術責任者)は「(近赤外線よりも波長が短く)水に吸収されにくい『グリーンレーザー』を用いることで、豪雨災害直後の河川や地表の形状も3次元で測定できる」と説明する。
一方、ドローンには災害が起きる前に果たす役割も大きい。測量大手「パスコ」(東京)の堺浩一課長は「平時から地表の計測を重ねておけば、災害につながる異変を察知できる」と指摘する。地上50~100メートルの低空飛行ができるドローンならより詳細な測量ができ、それだけ、災害の兆候を覚知できる。ドローンによる空撮映像や地表の3次元データを集約し、深刻な被害が予想される地域の特定などに貢献する可能性がある。
自動飛行のドローンを巡っては、地図を作製するための地形の測量が主な活用方法だったが、国交省では今後、災害対応のほか、橋梁(きょうりょう)やダムなどインフラの点検、建設現場の測量でもドローンを積極的に活用していく方針だ。
昨年12月には操縦者の目が届かず、人がいる市街地の上空でも自動で飛行できる「レベル4」の飛行が解禁となった。河川の上を「空の道」に見立ててドローンの航路とする計画もあり、長時間飛行ができるドローンの実用化で都市部から過疎地などに食料や医薬品を運べるようになりそうだ。3月には日本郵便が東京都の奥多摩町でレベル4での荷物の配達を試行的に行った。
ただ、強風など厳しい気象条件でも安全に飛行できるのか。機体の大型化はどの程度可能なのかなど、克服すべき課題もある。
ドローンに詳しい千葉大の野波健蔵名誉教授は「ドローンはエンジンを搭載したハイブリッド式が主流になる」との見通しを示した上で、「都市部では騒音のないバッテリーだけで飛行し、上空や郊外ではエンジンをかけて長時間飛行するといった検討もしていく必要がある」としている。
筆者:大竹直樹(産経新聞)