自ら「ハーフ牧師」と名乗る砂川竜一さん
=沖縄県南城市の「つきしろキリスト教会」(川瀬弘至撮影)
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沖縄県知事選が行われた9月、同県では24の市町村議選も実施され、さまざまな人が立候補した。
南城市の牧師、砂川竜一さん(52)もその一人だ。
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出生時の名前はジョニー・スナガワ・エスコベード。米兵だった父と、米兵の集う飲食店で働いていた母のもとに生まれた。沖縄では「よくある話」と、砂川さんは言う。しかし幼少の頃に父と母は離婚し、砂川さんは姉とともに母の手ひとつで育てられた。これも、「よくある話」だ。
貧しかった。当時は父方が日本人でないと国籍を取得できず、十分な公的支援も受けられなかった。
だから13歳で国籍を取得し、日本人になった時の喜びは今も忘れない。「竜一」の名は、大好きだった漫画のキャラクターからとって自分で決めた。
漫画の中の「竜一」はケンカが強くて人気者だった。しかし、実際の竜一は中学で壮絶ないじめを受ける。不良グループのターゲットにされ、毎日殴られ、蹴られ、生傷が絶えなかった。懸命に勉強して工業高校に進学し、いじめからは逃れたものの、今度は教員が母を「水商売」と侮辱したことがきっかけで中退してしまう。
人生の進路を見失い、自暴自棄になりかけた砂川さんに、母は言った。
「アメリカへ行って、お父さんに会ってきなさい」
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海外旅行が高嶺(たかね)の花だった時代。母は多額の借金をして航空券を購入してくれた。父の存在を知れば息子は自信を取り戻すと、思ったのだろう。
だが、母の期待は打ち砕かれる。再婚していた父は、渡米した砂川さんを迎え入れてくれたが、言葉が通じず、心を通わすこともできなかった。それどころか、砂川さんが来たことで父の家庭に亀裂が入ってしまうのだ。
どん底だった。誰からも必要とされず、愛されてもいない。この顔も、心も、すべてが嫌いだった。
そんな砂川さんを救ってくれたのは、父との通訳をしてくれた日本人牧師の言葉である。
「神様はあなたを愛している」-
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以後、帰国した砂川さんは神学校で学び、沖縄で教会を設立する。絶望した人に、「あなたは愛されている」と伝えるために。
とくに力を入れたのは、恵まれない家庭の子供たちへの支援だ。24歳で結婚したものの実子はつくらず、孤児や被虐待児の里親になる道を選んだ。いまや短期受け入れも含め20人の“お父さん”である。
政治運動にも奔走した。きっかけは北朝鮮による拉致問題。家族を引き裂くことが許せず、この問題に熱心に取り組む保守派にシンパシーを抱いたという。
そして、子供を不幸にする最大の要因は親のギャンブル依存症であるとし、ギャンブル場への課税強化などを訴えて市議選に初出馬した。
結果は最下位落選。でも、落胆はしていない。「神様がなさることに間違いはない。この結果にもきっと意味があるはず」と前を向く。
同日投開票の知事選では、同じく母子家庭で米兵を父に持つ玉城デニー氏が再選を果たした。政治信条はまるで異なるが、子供たちの未来のために、こんなエールを送る。
「私も知事もハーフ。だけど本当につらいのは血筋上の問題ではなく、父親と母親の愛情を等しく受けられないこと。そんな子供たちも笑顔になれる沖縄にしてほしい」
筆者:川瀬弘至(産経新聞那覇支局長)