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Customers queue to enter a Uniqlo store in Moscow, Russia March 10, 2022. REUTERS/Maxim Shemetov

閉店する前のモスクワ市内のユニクロの店舗(ロイター)

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ロシアによるウクライナ侵攻から24日で2カ月がたつ。この間、浮き彫りとなったのが〝平和ボケ〟とも言える日本企業の危機管理態勢の脆弱(ぜいじゃく)さだ。非人道的な攻撃を続けるロシアでの事業に関し、早々に見切りをつける欧米企業が目立つ中、日本では様子見の企業が多かった。意思決定の遅さについて、日本企業の組織的課題を指摘する声もあり、激変の時代を勝ち抜くためにも、組織の抜本的な見直しが求められそうだ。

 

「日本人として恥ずかしい」「もう買わない!さよなら!」

 

3月9日の衣料品ブランド「ユニクロ」の公式ツイッターには、こんな書き込みが相次いだ。ユニクロを運営するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長が、メディアのインタビューで「衣服は生活の必需品。ロシアの人々も同様に生活する権利がある」と、ロシアでの事業継続を表明したことを受け、同社への批判が広がったのだ。

 

ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長

 

すでに欧米では米アップルや米ナイキなど、ロシア事業を見直す企業が相次いでいたこともあり、柳井氏への反発は、「#boycottuniqlo(ボイコット ユニクロ)」のハッシュタグ(検索目印)とともに、世界中に拡散された。ファストリは翌10日、「事業を一時停止する」と方針転換した。

 

4月14日の決算説明会で、撤退の判断が遅れたのではないかとの指摘に、「(判断が)遅れることはあり得ない」と述べた柳井氏だが、風を読み間違えたのは明らかだった。

 

著名な柳井氏の発言ということもあり、大きな注目を集めたファストリだが、実はこの時点で大半の日本企業も静観の姿勢だった。ただ、ファストリの〝大炎上〟を他山の石としたのかこの日を境に、資生堂やシャープなど、それまで静観の姿勢を示していた多くの日本企業がロシア事業の一時停止を相次いで公表した。

 

各国政府がロシア政府に対して厳しい経済制裁を科す中で、決済や部品供給に支障が出るなど、事業を止める理由はさまざまだが、ファストリのようにブランド価値の棄損を警戒した企業も多かったとみられる。

 

帝国データバンクによると、ロシアに進出する日本の上場企業168社のうち、4月11日時点で現地の事業停止や撤退を決めた企業は36%に当たる60社となった。1カ月前の37社(22%)よりは増えたが、今も方針を決めかねている企業は多い印象だ。

 

ロシアでの営業停止が発表された後、ユニクロの店舗に並ぶ人たち=3月10日、サンクトペテルブルク(AP)

 

日本企業の対応の遅れについて、海外での事業リスクに詳しいオオコシセキュリティコンサルタンツの和田大樹氏は「戦争や紛争が身近でないこともあり、日本の経営者は地政学リスクへの意識が低い」と語る。PwCジャパングループが昨年8月に実施した調査でも、8割近い企業が地政学リスクへの対応を「重要」と回答しているにもかかわらず、専任チームを設けているのはわずか12%で、33%は何も対応を取っていなかった。

 

判断の遅れには「日本企業の組織上の課題も大きい」と語るのは、同志社大の太田肇教授だ。日本の企業は海外に比べて個人の権限が曖昧で、意思決定も組織的に行われることが多い。

 

合議で決めるので組織はまとまりやすく、慎重な判断が行われるメリットはある。しかし、意思決定に時間がかかるほか、責任の所在も曖昧になるため、黙って時が過ぎるのを待つなど保守的な判断を選択しがちだという。地政学リスクなど専門性が高い案件では、合議で決める意味も薄れる。

 

今後はロシアの肩を持つ中国の動向も気がかりだ。西側諸国による経済制裁の矛先が中国に向かえば、日本経済や各企業へのダメージはロシアに対するものとは比べものにならない。ある流通大手の関係者も「想像したくもない」と口をつぐむ。

 

太田教授は「通常のビジネスでも判断の遅さは命取りだ」と指摘。先行者利益が大きいデジタルの分野で日本が遅れているのも、こうした要因が大きいといい「個人に権限を委譲し、プロフェッショナルな集団へと組織を抜本的に見直す必要がある」と話している。

 

筆者:蕎麦谷里志(産経新聞経済部)

 

 

2022年4月23日産経ニュース【経済インサイド】を転載しています

 

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