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約1年ぶりに行われた日中首脳会談では「戦略的互恵関係」の包括的推進を確認したが、懸案である中国による邦人拘束問題、尖閣諸島周辺の排他的経済水域(EEZ)での中国ブイの撤去問題、中国による日本産水産物の全面禁輸問題は解決しなかった。
日本経済新聞によると、10月に北京で開かれたレセプションで、「戦略的互恵関係」という概念を編み出した垂秀夫駐中国大使は、そのコンセプトについて「個々の具体的な問題に終始するだけでなく、互いの戦略的な利益のために、様々な懸案があったとしても、粘り強く意思疎通を強め、日中関係の安定を図っていく」と説明し、出席していた王毅中国外相が垂氏に同意と称賛を示したという。
日中首脳が「戦略的互恵関係」を確認し、対話を継続することは大事ではあるが、「個々の具体的な問題に終始するだけでなく」と言って放置するべきではない。邦人救出は国家として最優先に取り組むべき課題である。岸田文雄首相がいくら「懸案について漏らさず日本の立場を伝えた」(首相周辺)としても、習近平国家主席に響くものではない。なぜなら日本側は対抗手段を用意していないからだ。
スパイ防止法を持て
習近平政権下の2014年に中国で「反スパイ法」が施行されてから、少なくとも17人の日本人が拘束され、10月に正式逮捕されたアステラス製薬の男性社員を含む5人が解放されていない。7月には捜査権限が強化された改正反スパイ法が施行された。
米国をはじめ多くの国にはスパイ防止法があり、自国民が中国にスパイ容疑で拘束されても、自国が拘束した中国人スパイと交換する形で自国民の解放につなげてきた。しかし、日本にはスパイ防止法がないため、そうした手段を取ることができない。
上川陽子外相は11月9日の参院外交防衛委員会で、スパイ防止法の制定を求めた日本維新の会の松沢成文参院議員に対し、「多角的な観点から慎重に検討すべきだと考える」と述べるにとどまった。中国に邦人の一日も早い解放を促すためにも、与野党は早期に「スパイ防止法」の制定に取り組むべきである。
意思疎通だけではいけない
水産物禁輸問題やブイの即時撤去問題も同様で、単に中国と意思疎通を図っても解決することはないだろう。
今年は日中平和友好条約45周年の節目に当たるが、今の中国は45年前の中国ではないことを日本側は肝に銘じるべきだ。
筆者:有元隆志(国基研企画委員・月刊「正論」発行人)
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国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第1092回(2023年11月20日)を転載しています