FILE PHOTO: Members of Trans-Pacific Partnership trade deal pose for an official picture after the signing agreement ceremony in Santiago

FILE PHOTO: Representatives of members of Trans-Pacific Partnership (TPP) trade deal: Brunei's Acting Minister for Foreign Affairs Erywan Dato Pehin, Chile's Foreign Minister Heraldo Munoz, Australia's Trade Minister Steven Ciobo, Canada's International Trade Minister Francois-Phillippe Champagne, Singapore's Minister for Trade and Industry Lim Hng Kiang, New Zealand's Minister for Trade and Export Growth David Parker, Malaysia's Minister for Trade and Industry Datuk J. Jayasiri, Japan's Minister of Economic Revitalization Toshimitsu Motegi, Mexico's Secretary of Economy Ildefonso Guajardo Villarreal, Peru's Minister of Foreign Trade and Tourism Eduardo Ferreyros Kuppers and Vietnam's Industry and Trade Minister Tran Tuan Anh, pose for an official picture after the signing agreement ceremony in Santiago, Chile March 8, 2018. REUTERS/Rodrigo Garrido/File Photo

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草をはむ3頭の牛を獅子が狙っていた。牛たちの結束は固かったが、獅子は他の目を盗み1頭に耳打ちする。「あいつらは陰で君の悪口を言ってるぞ」。やがて仲違(たが)いした3頭は散り散りになり、鋭い牙にかかる。

 

悪人は善人の顔をして近づいてくる。このイソップ寓話(ぐうわ)は、牛と獅子を人間に置き換えれば社会の縮図そのものだろう。国と国の関係も、3頭の牛に学ぶものが多い。太平洋を取り巻く国々による貿易・投資が高度に自由化された市場に、すり寄ってきた国がある。

 

補助金で守られた国有企業あり、情報移転の自由を阻む規制あり、新疆ウイグル自治区での強制労働問題あり。経済を国家統制の下に置く国が、自由な市場への「仲間入り」とはどの口が言う。9月16日、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に加盟を申請した中国である。

 

米国の離脱を奇貨として、あわよくば巨大市場を「わが庭に」という腹が見えているだけに始末が悪い。交渉入りや加盟には、全参加国の承認が必要という。コロナ禍で関係のこじれたオーストラリアに、中国がとった高関税措置の一事をみても仲間とは認め難い。

 

獅子の耳打ちで参加国が個々に切り崩されないためにも、中国を交渉の席に着かせることには慎重でありたい。TPPは「自由な市場」に名を借りた経済安全保障であり、大きな原則を簡単に曲げてはならない。今年の議長国であるわが国の良識が問われてもいる。

 

イソップ寓話をもう一つ。神は善人と悪人を見分けるため、恥ずべき行いをした善人が赤面するように血を授けた―という。「一帯一路」の甘言で途上国を丸め込み、顔色一つ動かさぬ国の善悪など語るに及ばない。欧州には「地獄への道は善意で舗装されている」の格言もある。

 

 

2021年9月19日付産経新聞【産経抄】を転載しています

 

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