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「中華民族の偉大な復興」を掲げ覇権の拡大を続ける中国は、西太平洋において海空統合演習を繰り返し、将来的に米軍をこの地域から追い出そうとしている。中国が保有するとされる2000発近い中距離弾道・巡航ミサイルは、沖縄からグアムまでを射程に収め、対抗手段としては、米国の戦略核を主体とする核抑止力に頼る他ないのが現状である。加えて中国の最新の極超音速滑空兵器DF17を迎撃できる装備は日米ともに保有しない。

 

宇宙領域においても中国の軍拡は急速に進展している。中国のキラー衛星は、日本はもちろん米国の人工衛星を破壊できる能力を持つ。仮に攻撃されれば、日常使用している全地球測位システム(GPS)などの衛星通信や、自衛隊、米軍の指揮・通信・情報収集が阻害され、防衛行動さえ取れなくなる恐れがある。米国の対中脅威認識は今や最高度に達している。

 

 

北京が描く尖閣奪取シナリオ

 

中国は、国際裁定を無視して南シナ海の諸島を力により支配しているが、この強引な姿勢は尖閣諸島でも貫かれると見るべきである。中国は日本の実効支配を徐々に崩していく中で、尖閣領有を既成事実化し、偶発事態になれば、日本に先に軍事行動を取らせることにより、自らの軍事行動を正当化する考えであろう。

 

あるいは米国の介入がないと計算した場合、まず中国漁民の遭難等による上陸、その漁民保護のための海警要員の上陸、次いで海警と日本の海上保安庁・警察の衝突、そして海警防護のための軍の出動および尖閣占領、と行動をエスカレートさせるだろう。更にその間、自国の行動を正当化するため三戦(世論戦、心理戦、法律戦)を繰り広げるであろう。

 

米国防総省は9月1日の中国軍事力に関する報告書において、中国海軍の艦艇数は既に米海軍を凌駕したと述べている。このまま米中の軍事バランスが中国有利に推移していけば、中国による尖閣領有の既成事実化をあと何年阻止できるであろうか。

 

今や日本は、第1段階として尖閣周辺の海洋・環境調査や尖閣における日米共同射爆撃訓練、第2段階として尖閣での恒久的な施設(海洋調査設備、航行安全設備等)の設置により、実効支配を明確にすべきぎりぎりの時点にあるのではないか。平成22年、海保巡視船に衝突した中国漁船船長の逮捕を巡り、中国からレアアース輸出停止や日本企業駐在員拘束などの報復があった。日本が行動を起こせば、当時以上の報復があることは確実であり、日本政府として事態収拾までのプラン(出口戦略)を持っておくことが必須である。

 

 

「懸念」の段階は過ぎた

 

河野太郎防衛相は9日、米戦略国際問題研究所のオンライン討論において「中国は日本にとって安全保障上の脅威となった」と語ったが、政府は今年の防衛白書で、中国について「懸念」との表現にとどめている。コロナ禍で示された中国共産党独裁体制の情報隠蔽体質、香港弾圧で示された強権体質を併せ見れば、「中国は我が国安全保障上の脅威」と位置付ける国家安全保障戦略の策定が急務である。

 

筆者:岩田清文(国基研評議員・元陸上幕僚長)

 

 

国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第719回・特別版(2020年9月14日)を転載しています

 

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