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12月初旬と中旬、習近平主席の政治に対する認識と評価が明らかに相反する2つの文が、同じ人民日報9面の「理論版」に掲載された。
まずは9日、「改革開放は党の偉大なる覚醒だ」と題する署名文を掲載。執筆者は共産党中央委員で、中央党史と文献研究院の曲青山院長である。文は1980年代以来の改革開放の歴史を回顧しながら、中国を「世界第2の経済大国」に押し上げた改革開放の歴史的業績を高く評価した。同時に、改革路線を推し進めた鄧小平に対して最大限の賛辞をささげ、鄧小平こそが新しい時代の偉大なる開拓者だと位置付けた。
さらに、鄧小平改革路線の継承者として、江沢民と胡錦濤両氏の名前を挙げ、彼らの政権時代における改革開放の「さらなる発展」と、江・胡両氏の「改革の発展」に対する貢献に多大な評価を与えたのである。
しかし、改革開放に対する文の回顧と評価は、胡錦濤政権時代に対する言及で終わってしまい、その後の習近平政権時代への言及は一切ない。習主席の名前にすら触れていない。あたかも、今の習近平政権は改革開放の「さらなる発展」とはまったく無関係であるかのような書き方だ。
つまりこの文は、改革開放の業績を高く評価しておきながら、今の最高指導者の習主席をこの業績から露骨に外してしまい、暗に習主席のことを貶(おとし)めた。
さらに言えばこの文からは、「習主席の政治は改革開放の正しい路線から外れた」との批判の意味合いが読み取れないこともない。もしそうであれば「習主席批判」の文が、中国共産党機関紙の人民日報で堂々と掲載されるという、重大なる政治事件が発生したわけである。
そして13日、今度は胡錦濤政権時代までの「問題点」を指摘し、習主席の政治を高く評価する文が、同じ人民日報に掲載された。
文は「党の全面的指導を堅持せよ」と題するもので、執筆者は共産党中央規律検査委員会委員・中央政策研究室の江金権主任である。
文は「党の全面的指導」をいかにして強化すべきかの視点から、胡錦濤政権時代までの「偏り」を次のように指摘した。
「改革開放の条件下、党の一元化指導に対する反省と、党の指導をいかに改善していくかという模索の中で、党の指導の内容と形式において一定の偏りが生じた。18回党大会の後でそれが解消された」と。文中の「18回党大会」とは、2012年秋に開かれた、胡錦濤前共産党総書記の退任と今の習近平総書記の就任が決まった党大会のことである。
つまりこの文は、「党の全面指導の堅持」における胡錦濤政権時代までの「偏り」を指摘した上で、この「偏り」を正した習主席の功績を称賛したものである。明らかに、前述の曲青山の文と真正面から対立し、曲青山の文に対する「意趣返し」の反論であると理解できよう。
このようにして、同じ人民日報において、習主席の政治路線を暗に批判する文と、それを称賛する文が数日間をおいて掲載されるという、極めて異例の事態が生じたのである。それは、鄧小平以来の改革開放路線をどう評価するのか、改革開放路線から離反しようとする習主席の政治をどう認識するのか、という重大な政治問題について、今の共産党最高指導部に相反する2つの声と2つの陣営が対峙(たいじ)している、ということである。
そして、2つの陣営の対立が人民日報を舞台に、すでに表面化したことも注目すべきだ。
来年秋の党大会開催に向け、共産党指導部内の政治闘争は新しい展開を迎えようとしている。
筆者:石平
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2021年12月23日付産経新聞【石平のChina Watch】を転載しています