囲碁の史上最年少プロ棋士になる小学3年生の藤田怜央君
(南雲都撮影)
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冷戦下、チェスの世界では旧ソ連が米国を圧倒していた。ところが1972年の世界選手権で、米国人のボビー・フィッシャーが初めて世界チャンピオンとなる。米国は空前のチェスブームに沸いた。
6歳の時、姉から1ドルのチェスセットを買い与えられたのが始まりだった。地元ニューヨークのチェスクラブに出入りするようになり、14歳で史上最年少の全米王者となる。神童の名をほしいままにした。
かつて日本のお家芸だった囲碁で、中国や韓国の後塵(こうじん)を拝して久しい。理由の一つとされるのが才能のある子供たちを集めて英才教育を施す育成システムだった。それに倣い日本でも、通常の選抜の手続きを経なくてもプロになれる制度ができた。3年前に第1号となったのが仲邑菫二段(13)である。その後大活躍が続いており、第2号にも期待がかかる。
史上最年少のプロ棋士となる大阪の小学3年生、藤田怜央君(9)である。仲邑二段の父親はプロ棋士なのに対して、藤田君の場合はもともと囲碁に縁があったわけではない。4歳の頃オセロに夢中になったものの教室が見つからず、代わりに通った碁会所ではまった。
チェスの名手でもある将棋の羽生善治九段は、フィッシャーを「チェス界のモーツァルト」と呼んだ。5歳で作曲を始めた音楽の神童は、数々の奇行でも知られる。フィッシャーもまた、世界王者となった後防衛戦を拒否して消息を絶ち、反米発言を繰り返して物議を醸した。囲碁の神童にはくれぐれも碁盤に集中して、世界チャンピオンへの道を突き進んでほしい。
将棋界では昨日、女性初のプロ棋士をめざす里見香奈女流五冠のプロ編入試験五番勝負が始まった。囲碁、将棋ファンにとってそわそわする日々が続く。
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2022年8月19日付産経新聞【産経抄】を転載しています