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宇宙で最も重く、謎に包まれた天体であるブラックホールのうち、太陽系がある天の川銀河の中心に位置する「いて座Aスター」の撮影に成功したと、国立天文台などの国際チームが5月12日、発表した。非常に強い重力であらゆる物質をのみ込むため、姿を見ることが困難なブラックホールの撮影成功は世界で2例目で、身近な天の川銀河では初。
国際チームの日本メンバーは同日、東京都内で記者会見し「ブラックホールや銀河の多様性の理解につながる。研究の新しい幕が開ける」と語った。
いて座Aスターは、地球から約2万7000光年の距離で太陽の400万倍の質量を持つ。その存在は欧米の研究者が観測で指摘し、2020年のノーベル物理学賞に輝いた。だが、光さえ引き込まれて出てこないことから真っ暗で、撮影はできていなかった。
そこで国際チームは、国立天文台などが建設した南米チリのアルマ望遠鏡や米欧、南極など6カ所計8基の電波望遠鏡を連携し、地球サイズの巨大な望遠鏡に匹敵する高解像度の観測体制を構築。
17年4月に観測を行いデータを解析した結果、周囲のガスが引き込まれる際に輝く様子を捉え、直径約6000万キロの明るい円形の中央部に、「黒い穴」のような姿を浮かび上がらせることに成功した。
国際チームは同じ手法で19年、世界初のブラックホールの撮影成功を発表している。対象は、5500万光年離れたおとめ座のM87銀河の中心にあり、太陽の65億倍の質量を持つ巨大ブラックホールだった。観測時期は同じだが、いて座Aスターは周囲の物質の動きが速く不安定なため、M87銀河の解析が先行した。
M87銀河のブラックホールは、ガスが猛スピードで噴出するジェットという現象が確認されているが、いて座Aスターにはなく、両者は特徴が異なる。国際チームの日本代表を務める国立天文台の本間希樹(まれき)教授は「画像を詳しく比較すれば、活動性の違いの起源や銀河に与える影響の解明につながる。重力が強い空間で既存の物理法則が成立するかどうかの検証にも役立つだろう」と話している。
地球サイズの巨大望遠鏡で観測、撮影
ブラックホールは、非常に大量の物質が狭い領域に押し込められた天体だ。重力は非常に強い。光さえも抜け出すことができず、周囲にあるガスなど、あらゆるものを吸い込んでしまう。光も発しないため、姿をとらえるのは難しく、観測は周囲にあるガスや星が放つ光や電波、X線などをとらえていることで成り立っている。
また、ブラックホールの中央部は光が飲み込まれ、黒い穴のようにみえる。周囲にある明るい環(わ)はブラックホール周辺にある高温のプラズマガスから発せられた電波だ。電波は強い重力の影響で進行方向が曲げられ、本来は地球とは別の方向に向かっていた電波も地球まで届くという。
イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)は、国立天文台などが建設したチリのアルマ望遠鏡や米欧、南極など世界各地の電波望遠鏡を連携し、地球サイズの巨大な望遠鏡に匹敵する高解像度の観測体制を構築。そのことによって、ブラックホールのごく近くの様子を高解像度で画像化が可能になった。EHTの視力は人間の約200万倍にもおよび、月に置いたゴルフボールが地球から見える視力に相当する。