Swimming Sun Yang Appeal

FILE - In this July 26, 2019, file photo, China's Sun Yang leaves the pool deck following the men's 4x200m freestyle relay heats at the World Swimming Championships in Gwangju, South Korea. Chinese swimmer star Sun Yang has been banned for more than four years for breaking anti-doping rules. The verdict by the Court of Arbitration for Sport ends Sun’s hopes of defending his Olympic title in the 200 meters freestyle in Tokyo next month. His ban expires in May 2024. (AP Photo/Mark Schiefelbein, File)

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用意周到、それとも政治的パフォーマンスか、異様な光景だった。7月10日、東京五輪に出場する中国選手団の第1陣が成田空港に到着すると、中国国際航空の従業員が白い防護服で身を固め、「熱烈歓迎」のボードを掲げながら出迎えた。

 

昨年11月、体操の国際競技会に参加する中国選手団が防護服とゴーグルという姿で来日して周囲を驚かせた。今回の選手団はフェースシールドとマスクにとどめたものの、日本国内で暮らす従業員が完全装備だったのは、新型コロナウイルス感染症を封じ込められず、東京五輪が安心安全ではないことを示そうとしたのではないか。

 

孫楊

 

スポーツ仲裁裁判所(CAS)は6月、ドーピング規定違反のため2020年2月に8年間の資格停止を受けていた中国の競泳選手、孫楊(29)に対する処分を4年3カ月にする裁定を下した。昨年4月に「孫楊 復権画策か」と指摘したが、資格停止期間が大幅に短縮され、24年パリ五輪出場への道が開けたのは事実上の勝訴といえる。

 

孫楊は12年ロンドン五輪の競泳男子400メートル、1500メートル自由形、16年リオデジャネイロ五輪200メートル自由形の金メダリストだが、傍若無人の行動は目に余るものがあった。18年9月の抜き打ち検査では、検査官の資格と手続きに問題があると、ボディーガードに血液検体をハンマーで破壊するように命じる暴挙に出たという。オリンピアンとは言い難い人物が復権できたのはなぜなのか、背景を探ると中国の政治、経済的影響力の大きさがみえてくる。

 

2019年7月、ドーピング疑惑の中で世界水泳選手権に出場し、男子200メートル自由形で金メダルを獲得した孫楊(AP Photo/Lee Jin-man, File)

 

17年、国際オリンピック委員会(IOC)に衝撃が走った。有力スポンサーの米ファストフード大手、マクドナルドが突然、最高ランクの「ワールドワイドオリンピックパートナー(TOP)」からの撤退を発表。1976年から五輪を支えてきたのに「費用対効果を期待できない」と去っていった。

 

IOCの苦境を見透かすかのように中国企業が動き出す。早速、電子商取引の「アリババ」がTOP入りすると、2021年からは乳製品メーカー「蒙牛乳業」が加わった。コカ・コーラとともに「ノンアルコール飲料・乳製品」分野を担い、両社合わせて総額30億ドルの契約を交わした。

 

CASは独立機関とはいえ、トップはIOCのジョン・コーツ副会長である。厳しい懐事情からすれば、チャイニーズ・マネーに頼らざるを得ないからこそ、孫楊への〝大甘裁定〟に至ったとみえてしまう。

 

今年5月、IOCのトーマス・バッハ会長は中国の習近平国家主席と電話で会談し、22年北京冬季五輪成功に向けて協力していくことで一致した。香港の民主派弾圧や新疆(しんきょう)ウイグル自治区の人権問題で米中関係の緊張度が増し、ボイコットの動きを絶対に阻止したい両者は「政治を持ち込むのは反対」というメッセージを発信した。

 

だが、バッハ会長は15年の国連演説で次のように述べている。「スポーツは政治と無関係とはいかない。なぜなら、スポーツは社会の孤島ではないからだ」。相手によって言葉を選ぶため、この人の真意をつかむのには、いつも苦労する。

 

一方の中国はブレない。防護服の出迎え、孫楊の勝訴、トップ会談という点が、太く強力な線となってつながり、IOCのバッハ、コーツ体制に絡みつく。東京大会閉幕後、五輪運動の覇権を握ろうとする国家戦略を見逃してはならない。

 

筆者:津田俊樹

 

 

2021年7月20日付産経新聞【スポーツ茶論】を転載しています

 

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