はやぶさ2のカプセルが帰還したことで、日本は小惑星の試料を地球に持ち帰る技術を世界に先駆けて確立し、実用段階に引き上げることに成功した。
初代はやぶさは心臓部のエンジンや通信装置などの故障が相次ぎ、満身創痍(そうい)で奇跡的に帰還した。初の小惑星探査で実験的な意味合いが強かった面もあるが、着地の際も装置が正常に働かず、ごくわずかな微粒子しか採取できなかった。
この教訓を生かしたはやぶさ2は、多くの対策を実施。小惑星リュウグウから無事故で帰還を果たし、さらに100億キロ離れた別の小惑星に向けて出発できたほど機体は健全だ。試料の採取は初代より多く、目標の0・1グラムを超える量が確実視されている。
リュウグウでは、条件の異なる試料を採取するため離れた2カ所に着地。さらに人工クレーターを作り、46億年前の太陽系誕生初期の状態を良好に保っている地下の物質採取も試みた。いずれも世界初の挑戦で、科学的な意義は大きい。
初代はやぶさが基礎を築いた日本の独自技術がさらに飛躍を遂げ、世界を独走する状態に入った形だ。初代の責任者だった宇宙航空研究開発機構(JAXA)の川口淳一郎シニアフェローは「人類が地球以外の天体から、安定的に多様な資源を獲得できる道を切り開いた」と評価する。
ただ、最近は米国も激しく追い上げている。今年10月にリュウグウと似た原始的なタイプの小惑星に探査機が着地し、日本を大幅に上回る数十グラムの試料を採取したとみられる。中国も採取を計画しているという。
日本の課題は新旧はやぶさの技術と知見を次代にどう生かし、発展させていくかだ。まず火星の衛星から試料を持ち帰る初の探査機を4年後に打ち上げ、新たにロボットハンドでの採取に挑む。JAXAの国中均・宇宙科学研究所長は「その後も小惑星など多様な天体から、ほぼ10年ごとに定期的に試料を採取する」との構想を明かす。
米中などと比べ科学技術予算に乏しい日本は、巨費を要する大規模な探査での競争は難しい。惑星探査では後れを取ってきたが、得意とする試料回収の技術を武器に成果を重ねることができれば、宇宙科学の進歩を先導できる。
筆者:伊藤壽一郎(産経新聞)