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自然科学研究機構「国立天文台」などの研究チームが、南米チリの高地にあるアルマ望遠鏡を用いた探査で、約130億年前の宇宙で塵(ちり)に埋もれた銀河(隠れ銀河)を複数発見した。このうちのひとつは観測史上最古の隠れ銀河だった。宇宙初期における銀河の形成や進化への理解に役立つとみられる。今年で科学観測から10年を迎えたアルマ望遠鏡は、世界各国が運用に参加する「理想の望遠鏡」だ。2019年のブラックホール撮影にも貢献するなど、「宇宙の謎」解明には欠かせない存在で、今回の発見も、アルマ望遠鏡だからこそできた成果でもあった。
銀河はどう成長したか
成果は、英科学誌「ネイチャー」オンライン版に掲載された。
見つかった「隠れ銀河」は、くじら座の方向にある「REBELS-12-2」と、ろくぶんぎ座の方向にある「REBELS-29-2」。このうち前者は観測史上最古となる131億年前の隠れ銀河で、後者は3番目に古かったという。
いずれも暗い天体まで見える「感度」がよいハッブル宇宙望遠鏡などでも見ることができない。紫外光(紫外線)をほぼ放っておらず、塵に埋もれているとみられる。研究チームはもともと、約130億年前の宇宙に存在した近赤外線から、非常に明るい銀河40個を観測。塵からの近赤外線の放射などを調べていたところ、偶然、この隠れ銀河を見つけたという。
発見に携わった国立天文台アルマプロジェクトの札本佳伸・特任研究員は「初期宇宙にあった銀河を見逃していたのではないか。塵で隠された銀河がまだある可能性がある。いずれにしろ、宇宙の進化、銀河がどのように成長したかなどの広い理解につながる」などと話す。
微弱な電波もとらえる
今回の発見には、アルマ望遠鏡の「特性」が大いに貢献している。
望遠鏡の性能には、暗い天体までみえる感度の良さと、細かいものまで見分けられる解像度の良さという2つの特性がある。そして、望遠鏡の口径が大きいほど、弱い光や電波をとらえることができる。米ハワイのマウナケアの頂上にあり、国立天文台ハワイ観測所が運用する光学赤外線望遠鏡「すばる望遠鏡」は、世界最大級の口径8・2メートルもある。
一方、アルマ望遠鏡は南米チリ北部の標高5000メートルのアタカマ砂漠にある電波望遠鏡。口径12メートルのパラボラアンテナ54台と、口径7メートルのパラボラアンテナ12台の計66台を直径16キロの範囲に設置。すべてを結合させることで、実質的な口径が16キロにも及ぶ巨大な望遠鏡を形成している。その解像度は、人間の視力で言えば「視力6000」に及び、大阪にある1円玉が東京から見分けられる能力に相当するという。
国立天文台天文情報センターの平松正顕講師によると、塵に埋もれた銀河から放たれた可視光や近赤外線をとらえる観測では見つけることができないが、電波望遠鏡であるアルマ望遠鏡は、電波の波長数ミリの「ミリ波」やそれより短い「サブミリ波」を観測できる。このためREBELS-29-2とREBELS-12-2を覆う塵から出た、ミリ波のような微弱な電波をキャッチできたという。
平松講師は「今回の発見は、高い解像度を誇るアルマ望遠鏡でないとできなかった」と指摘する。
宇宙の謎に迫る
アルマ望遠鏡は「アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計」が正式名称で、2011年9月30日に科学観測を始めた。日米欧などの計20カ国以上の国際協力によって運用され、まもなく観測10年を迎える。日本の最先端技術も導入されている。
惑星のもととなる塵やガスを観測できるため、惑星が誕生したり、成長したりする様子を考察できるほか、塵やガスに含まれる有機物もとらえられることができ、観測、分析によっては生命の起源に迫る可能性もある。
今回の発見について、研究に携わる稲見華恵・広島大学宇宙科学センター助教は「私たちが知り得ていないことが、この広大な宇宙にはまだまだあることを教えてくれる成果です」とコメントしている。
筆者:大谷卓(産経新聞)
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2021年9月26日付産経ニュース【クローズアップ科学】を転載しています