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盆地を彩るピンクの花。約30万本あるという桃の木が次々と満開になり「桃源郷」の世界を思わせる。
果樹王国として名高い山梨県。中央に位置する笛吹市は、桃とブドウの産出額が日本一を誇る。
4月初めに扇状地に広がる桃畑を歩いた。高低差が200メートルほどある高台に登ると、花々の間から桃畑の風景が眼下に広がった。
美しい眺めのかたわら、この時期、栽培農家は豊かな実りを目指し、さまざまな作業に追われている。
「今年の開花は1週間から10日早いですね。花はきれいですが、春は最も忙しい季節です」と話すのは、夫婦で花やつぼみの摘み取りをしていた河野登さん(67)。
河野さんは14種類の桃を栽培。摘み取りに加えて人工授粉や消毒も行う。特に消毒は2年前に「せん孔細菌病」が猛威を振るい、通常の2割しか出荷できない農家もあったため、作業を徹底。5月には実が付き摘果や袋かけに入る。
笛吹市は甲府盆地の水はけの良い地形と土壌、昼夜の温度差が大きい盆地特有の気候で果樹栽培に適しているとされる。だが、ここも新型コロナウイルスの影響は避けられないという。
市内のある観光農園では昨年の桃狩りやブドウ狩りのシーズン中、観光客が8割以上減った。バスツアーが中止され、団体客がそっくり消えたという。今年はどうなるか、見通しは立たない。
6月下旬には桃の収穫が始まる。河野さんは「山梨の桃は堅くて甘いのがおいしい」。次は夏に訪れて桃をかじりながら、「味の桃源郷」に浸ってみたい。
筆者:飯田英男(産経新聞写真報道局)