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今回の日米首脳会談を総括した共同声明で最も頻繁に強調されたのは「日米同盟の強化」だった。
その趣旨の下に日米間の「共同防衛の拡大」や「抑止の増強」という政策目標が繰り返し明記された。「日本は自国の国家防衛能力を高めることを決意した」という記述もあった。
だがいずれもバイデン政権の期待に菅義偉首相が押され気味に応じたという印象が残る。なぜならいまの日本側には防衛能力や抑止力を本格的に増強するという現実の政策や戦略はうかがわれないからだ。
防衛や抑止は一般の国家では、みな軍事とみなされる活動である。そもそも国家同士の同盟とは本質は軍事での相互支援なのだ。だが戦後の日本では軍事という言葉や概念が忌避されてきた。その特殊性が新しい時代の日米同盟強化と整合するのか。
なにしろ懸念の対象は対外的な膨張や威迫に軍事力を平然と最大手段にする中国や北朝鮮なのである。
日米防衛協力に長年、関与してきた米海兵隊元大佐のグラント・ニューシャム氏は英文メディアJAPAN Forwardへの首脳会談についての寄稿論文で皮肉っぽく述べていた。
「日本は恋に夢中な少女が相手の青年に会うたびに『私を愛しているか』と問うように米国に対し何度も何度も『尖閣を守るか』と迫るが、自国の尖閣防衛強化がみられない」
これでは、せっかくの米国の尖閣諸島への日米安保条約第5条適用の実効も消えかねないと警告するのだった。
ワシントンのハドソン研究所前所長ケネス・ワインスタイン氏は今回の首脳会談について「日本を米国の完全で対等なパートナーへと変容させる加速の機会だ」とする趣旨の論文を同研究所のサイトなどで発表した。
ただし同氏は日本は現段階では同盟の対等な役割を果たしていないとして以下の点を強調していた。
「日米共通の脅威である中国との戦略的競合の前線国たる日本はまず自国領土への中国の侵略を抑止する能力を高めねばならない」
「日本は自国の防衛を少しずつ強化はしているが、米国との効果的な共同防衛にはなお不十分で、いまの防衛態勢を実効ある抑止態勢へと変える必要がある」
「この不十分な現状は日本の憲法にも原因がある。米国は戦後、日本の戦力を奪い、国際紛争の解決でも軍事力の行使を禁止する特殊な憲法を押しつけた。このことがいま効果的な日米共同作戦や日本自身の予防攻撃能力への障害となっている」
同氏は安倍晋三政権時代にできた安保法制での集団的自衛権の限定行使ではなお不十分だと主張するのだった。
ちなみにワインスタイン氏は共和党系の学者だが、バイデン政権に近い民主党下院外交委員会中枢のブラッド・シャーマン議員も同じ趣旨をもっと過激に言明していることを付記しておこう。「日本が憲法を理由に有事に米国を助けないという現状では米国は尖閣を防衛すべきではない」
今回の首脳会談の背後には実はこうした複雑な影も広がっているのだ。
筆者:古森義久(産経新聞ワシントン駐在客員特派員)
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2021年4月19日付産経新聞【あめりかノート】を転載しています