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岸田文雄首相は10月23日、所信表明演説し、当面は経済最優先で政権を運営していく考えを強調し、成長型経済への変革に向け、税収増を国民に「還元」すると表明した。その柱は所得税減税だが、防衛増税も控える中で、野党からは「ちぐはぐ」との批判も出ている。今国会では国民負担のあり方に関する方針の全体像を、どう説明できるかが課題となる。
首相は演説で、30年ぶりの水準となった賃上げ率や、一時は50兆円に達した需給ギャップ(GDPギャップ)が解消に向かう状況などを列挙。「30年ぶりに新たな経済ステージに移行できる大きなチャンスが巡ってきた」と意気込んだ。
停滞からの脱却を確実にする策として挙げたのが、設備投資など「供給力の強化」と「国民への還元」だ。首相周辺は、このタイミングでの経済への注力を「内閣の歴史的使命」と位置付ける。
一方、演説では防衛増税の開始時期を「景気や賃上げの動向と、これらに対する政府の対応を踏まえて判断する」と述べるにとどめ、少子化対策の財源にも触れなかった。
官邸幹部は「減税と増税の時期が重なることはなく、矛盾はしない」と説明するが、分かりにくさは否めない。目先の負担減ばかりを強調すれば「人気取り」とみなされるリスクも高まる。
補選1勝1敗で足元厳しく
政権の足元は厳しい。内閣支持率は下落傾向を抜け出せず、22日投開票の衆参2つの補欠選挙も与党は1勝1敗という最低限の結果に終わった。首相は次期衆院選で勝利し、来秋の自民党総裁選で再選を果たす戦略を描くが、支持率を反転向上させ、衆院解散の好機をつかむのは容易ではない。
政権は来春以降の局面転換に期待をつなぐ。次の春闘でも賃上げの流れが確実なものとなり、加えて「還元」も実現すれば、国民が可処分所得の向上を実感でき、経済の好循環が回り始めるとの計算がある。その成否は政権の浮沈も左右する。
筆者:千葉倫之(産経新聞政治部)