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「核なき世界」への決意を新たにしたとか、「広島で平和へのコミットメントを確認した」といった空々しい表現が日本のマスメディアに躍った。その中でウクライナのゼレンスキー大統領の広島入りが投じた「国際政治の現実とは何か」の一石は貴重な価値を持つ。お祭り騒ぎや日本式のおもてなしではどうにも片付かない冷厳な現実が待ち受けている。
トランプ氏再登場なら国際情勢激変も
5月22日付の英フィナンシャル・タイムズ紙に、チーフ・フォーリン・アフェアーズ・コメンテーター(国際問題担当主任解説委員)のギデオン・ラックマン氏が書いている(全訳は25日付日本経済新聞)。
トランプ前米大統領は3月に、自分が大統領に再選されればウクライナ戦争を『1日で終わらせられる』と豪語した。どのような手はずを考えているのか分からないが、西側のウクライナ向け軍事支援の大半を米国が負担している現状から、トランプ氏再選は国際情勢の激変を予兆する。いずれ米国の民主、共和両党間にウクライナをめぐる深刻な対立は生じないか。
ラックマン氏が指摘しているのは、米欧が続けている軍需物資の在庫がほぼ底を突きそうになっている事実だ。兵器工場を戦時経済体制に転換させない限り、ウクライナの戦場で必要とされるペースで武器や弾薬などを供給できない状況になってきた、とラックマン氏は警鐘を乱打している。
ウクライナの戦況はわれわれにとって耳障りのいいロシア不利の情報ばかりが出回っているが、広島でうたい上げた主要7カ国(G7)の反ロ、反中の大合唱がもろくも崩れる事態が出現するかもしれない。
特別扱いに甘える日本
それにしても、日本の能天気ぶりは何事だろうか。「安倍路線」を引き継ぐと岸田文雄首相が繰り返し約束し、保守系と見られる評論家はいわゆる戦略3文書を礼賛し、防衛費を今後5年間で国内総生産(GDP)の2%にするのを歴史的偉業のように称える向きがある。
GDPの2%はトランプ政権当時に北大西洋条約機構(NATO)で問題になった数字で、今のNATOに2%など言っている国があるのか。「ウクライナ後」に向けてバルト3国や新加盟のフィンランドにはロシアに対する新たな警戒感が盛り上がっている。3%から6%が常識だ。
G7議長国の日本はウクライナに「非殺傷性」の物資を供給するだけでいいという「温情」に甘えている。水を飲みたがらない馬がようやく水際に近づき始めた。G7の他の国々はその日本を静かに観察している。己を知らない国に救いはない。繰り返すが、日本はG7の議長国だ。
筆者:田久保忠衛(国基研副理事長)
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国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第1041回(2023年5月29日)を転載しています