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中国新疆ウイグル自治区の「再教育収容所」に収監され、体験記を出版したウイグル出身女性、グルバハール・ハイティワジさん(56)が2日までに産経新聞のインタビューに応じた。ハイティワジさんは2019年8月の釈放後、収容所の体験談を求めるメディアの取材に積極的に応じ、産経新聞も21年4月に記事化した。ただ、証言は収容所での凄惨(せいさん)な記憶のフラッシュバックを伴う作業となる。中国政府にウイグル民族への圧力を緩める気配もないが、ハイティワジさんは「希望は失わない」と述べ、収容政策に終止符を打つ対応を国際社会に期待している。
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──19年8月に再教育収容所から解放され、フランスに戻った
「釈放時、当局者から『収容所の体験は公開するな。公開すれば中国に残した親戚がひどい目に遭うだろう』と脅され、静かに暮らしていた。だけど、(一緒に収監された)足かせをかけられた女性収容者のかわいそうな表情が頭から消えなかった」
──収容所の体験記を書き、日本でも21年10月に「ウイグル大虐殺からの生還 再教育収容所 地獄の2年間」を出版した
「体験を公開すれば、施設の実態が改善されるかもしれないと思ったからだ。堂々と名前を名乗れば、ウイグルに残した親戚が当局者にいじめられることもないだろうとも思った」
《話し終わると、ハイティワジさんは「はあ‥」と深いため息をついた。記者の質問に答える際、表情をゆがめる場面も目立つ》
──証言はつらい作業
「その通りだ。改めて収容所に入れられた気持ちになる。毎回、証言した後は2、3日寝られない。音楽を聴いたりして、頭から(収容所での苦しい記憶を)追い出そうと努力している」
──証言の結果、ウイグル収容政策に変化はあったか
「全く改善がみられない。それが終わった後に真相が世界に知れ渡ったナチス・ドイツのホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)と違って、今のウイグルの問題は、人工衛星といったテクノロジーで新たな収容所の建設などが明らかになっている。なのに‥失望する」
《22年5月、収容所などの実態を示す写真や2万3千人超の収容者名簿など当局の内部資料「新疆公安ファイル」が公開された。ハイティワジさんら生還者の証言を裏付ける内容といえる。約2900人の収容者の顔写真からは絶望や悲しみといった感情が読み取れる》
──新疆公安ファイルも自治区の公安サーバーへのハッキングというテクノロジーを通じて流出した
「収容者の顔写真を見た。女性たちは泣いてはいないが、目から涙がこぼれそうだ。私がいた収容所でも泣くことを禁じられていた。収容所の生活を思い出した」
《日本の国会ではウイグルの人権状況の改善に取り組む海外の政治家や研究者ら約200人が対応策を話し合う「国際ウイグルフォーラム」が10月30、31両日に開かれた。初来日というハイティワジさんもパネルディスカッションに登壇。今月1日には東京都内で収容所の実態を告発する証言集会に参加した》
「フォーラムはいろいろな研究者や政治家が来ていた。ロシアのウクライナ侵攻、イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザ侵攻など人道上の問題も起きて、相対的にウイグル問題への関心も下がりそうだったが、フォーラムの開催により、そうした事態がある程度、避けられるのではないか」
──日本や世界に期待することとは
「決定的なアクションをとって、このジェノサイド(集団殺害)を止めてほしい。(決議の発表などに終わらず)行動しないと意味がない。釈放されて4年以上がたつが、当時期待した世界の対応はこのようなものではなかった。でも、希望は失わない。中国に対しては、経済的な取引、お金のやり取りの上位に、自分の良心と人間性を置いて対応してほしい」
──現在も収容されるウイグル人に伝えたいこととは
「我慢して頑張ってほしい。それ以外はいえない」
──いま、幸せに感じる瞬間はありますか
「収監前は、家中を片付けた後、一杯のコーヒーを飲むことで、世界で一番幸せだと思った。今は孫や子供と一緒にいるときに、短いけれども幸せを感じられる」
聞き手:奥原慎平(産経新聞)