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新型コロナウイルスが猛威を振るう中、日本人は戦いの第一段階で感染爆発を回避し、ウイルスを抑制することができた。西村康稔新型コロナ担当大臣は5月8日、インターネット番組「言論テレビ」で「日本人の力」を賞賛した。

 

安倍晋三首相が緊急事態宣言を発出したのは4月7日だったが、それに先立って西村氏はどのようなメッセージを国民に送るか、首相と熱く議論したと語る。

 

日本が感染爆発を回避するには、人と人との接触を8割減らしてウイルスを封じ込めなければならない。8割減は相当な努力を国民に強いる。そんな要請ができるのかと、西村氏は首相に問うたそうだ。首相は「日本人には必ず出来るから、頼もう」と答えたという。日本国民の公衆衛生に対する意識の高さ、倫理観や連帯感に安倍首相は信頼を置いたのだ。斯くして、政府には命令権がなくただひたすら国民にお願いするだけの緊急事態宣言に至ったというのだ。

 

 

戦後体制の欠陥露呈

 

国民大多数は政府の要請を受け入れ、真面目に自粛した。新規感染者数は確実に減り、いま、緊急事態宣言は部分的に解除されようとしている。命令権の発動なしにここまで達成したのは、日本でなければできない立派なことだ。

 

ただウイルスとの闘いはこれからも恐らく長く続くだろう。第2波、第3波の襲来を現体制で乗り切れるのか。わが国の危機対応体制はこのままでよいのか。この点に関係する興味深い世論調査がある。

 

安倍首相の緊急事態宣言発出を受けて行われた世論調査である。リベラル、保守両陣営のメディアの調査結果は、8割方の人々が「宣言を高く評価する」、しかし「発出は遅すぎた」という点で共通していた。それは「首相よ、もっと迅速に、強力に国難に対処してほしい」という国民の意思表示であろう。そのような対処を許さない現行憲法及び法体系の批判とも読める。

 

 

コロナが開く改憲への道

 

西村氏はいま、こうした状況も念頭に強制力を持つ法整備の必要性を説く。安倍内閣の危機対応への国民の評価は厳しいが、それは安倍首相と政権への批判であると同時に、日本の戦後体制の欠陥に対する批判でもあろう。100%の性善説に基づき「国際社会の善意」に日本国民の命を託し、軍事力も持てない国が国難に直面すると、今回のような不十分な対応しかできない。国民の生命と健康を守るために、命令権と罰則を科す改正を考えるべきだと語った西村氏の言葉が説得力を持つゆえんである。

 

特措法改正への議論は、特措法を支える憲法の規定として、緊急事態条項を憲法に書きこむ形で議論されている。残念ながら自民党の議論は活発だとは到底言えない。特措法改正に前向きな西村大臣の姿勢を、日本国の、遅いけれども、必ず成し遂げられなければならない憲法改正につなげていきたい。

 

筆者:櫻井よしこ(国基研理事長)

 

 

国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第679回(2020年5月11日)を転載しています。

 

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