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Toyota Motor Corporation's logo. (Provided by Toyota)

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トヨタ自動車は19日までに生産技術に関する説明会を開き、次世代電気自動車(EV)の中核技術となる「全固体電池」の開発ラインや「ギガキャスト」と呼ぶ新工法の大型鋳造設備の試作機などを報道関係者に初公開した。新技術と「からくり」や「匠」といったトヨタ流の製造ノウハウの融合による高効率の量産技術を武器に、EV専業の米テスラや中国の比亜迪(BYD)に対抗する。

 

トヨタ自動車の新郷和晃執行役員

 

異なる電池の材料を載せた搬送パレットが上下2つのレールを高速で流れ、相対速度がゼロの同期地点になると、目では追えない速さで、材料を固定していた上のパレットの「爪」が外れ、絶妙のタイミングで下のパレットの爪が受け取り材料が重なっていく。

 

トヨタの貞宝工場(愛知県豊田市)の一角にある全固体電池の開発現場。無動力で動く、魔法のような機械仕掛けの爪を使った量産方法が試されていた。

 

次世代EVへの搭載を念頭に令和9~10年の実用化を目指して開発が進む全固体電池は、従来の電解液系の車載電池に比べて飛躍的に性能が高まる。EVの航続距離を1000キロ超に伸ばせるこの先端技術は、電池を構成する正極材、負極材、固体電解層を隙間なく密着させることが製造上の大きな課題だ。

 

トヨタ自動車の「全固体電池」の開発ライン。設備全体は見えないようにし、一部をモニターで公開した=愛知県豊田市の貞宝工場

 

量産には素材にダメージを与えることなく、高速・高精度で電池材料を積層する難題があるが、日本伝統のからくり仕掛けを自動車製造に応用したトヨタ流がそれを解決しつつある。余分な動力や配線も増やさないシンプルな機構は、生産の安定性にもつながる。

 

一方、エンジン部品などの鋳造品を扱う明知工場(愛知県みよし市)では、大形の車体部品をアルミで一体成形するギガキャストの設備が動き出している。

 

ロボットが高温でドロドロに溶けたアルミニウムを型に流し込み、型締め力4千トンの装置が圧力をかけると、これまで数十点の板金部品を使い、数時間をかけて作っていた車体部品が3分程度で出来上がる。

 

この新工法はテスラが実用化した革新技術で、トヨタの導入は「まねだ」とも揶揄(やゆ)される。この点は、トヨタも「われわれの想像を絶するようなモノづくりをされて、正直びっくりした。新しい選択肢をベンチャーから教わってチャレンジしている」(生産部門を統括する新郷和晃執行役員)と認める。

 

トヨタ自動車の「ギガキャスト」試作機=愛知県みよし市の明知工場

 

ただ、ギガキャストの実用化には、他社に比べて20%の生産性向上という〝テスラ超え〟の目標が掲げられている。それを実現するのが、「匠」と呼ばれる熟練工の技能とデジタル技術を組み合わせたトヨタの製造力だ。

 

装置が巨大化する新工法では通常、クレーンなどによる定期的な鋳型の交換作業に24時間程度もかかる。これをトヨタはわずか約20分で実現する。創業以来、培ってきた匠の技で独自の形状の金型を開発。試作機は、装置のベースの汎用(はんよう)型と、製造品の形状の専用型を分離する構造とすることで専用型の自動交換を可能とした。これは現状「トヨタしかできていない」(新郷氏)という。

 

さらに、匠ならではの経験値や品質のチェックポイントを反映できる独自のデジタル解析技術で不良品の発生を抑え、トータルで20%の作業の無駄の削減(生産性向上)を図る。工法は同じでも「工程の無駄を減らしていく考え方はないだろう」と、工場担当者はテスラとの違いを指摘する。

 

新興のテスラやBYDはエンジン車の生産技術にとらわれず、ゼロからEVに最適化した開発や設備投資ができた。EVで先行するテスラなどを追う立場のトヨタにとって、エンジン車の既存生産設備の維持は足かせとみる向きもある。

 

だが、今回公開された生産技術は、長年の自動車製造による技能の蓄積や無駄な作業を減らす工夫といった現場力が、むしろ新興勢に対する差別化のばねになる可能性を示した形だ。

 

筆者:池田昇(産経新聞)

 

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