ドイツの首都ベルリン市ミッテ区で先月、韓国系市民団体が中心になって設置した慰安婦像について、地区当局は10月8日、設置許可を取り消し、14日までに撤去するよう求めたと発表した。政府が、慰安婦問題について最終的かつ不可逆的な解決を確認した平成27年の日韓合意の趣旨などを丁寧に説明したことが奏功した。ただ、韓国側の動きは巧妙化しており、粘り強い対応が欠かせない。
同区のシュテファン・フォンダッセル区長の声明によると、慰安婦像は芸術作品として設置が申請され、「戦時における女性への性的暴力に対する反対」を表すものとされていた。
だが、実際は「第二次世界大戦下における日本軍の振る舞いのみをテーマにした」ものだったとして「日本国内やベルリンでいらだちを引き起こした」と指摘。区長は「区が国家間の歴史的な論争で一方に肩入れすることは避けねばならない」との見解を示した。
ドイツでは自治体の権限が強い。外務省は今回、在独日本大使館などを通じ、政府だけでなく区も含め、日韓合意や日本の立場などの説明を重ねた。“敵失”もあった。ベルリンの像の製作費などを支援した韓国の慰安婦団体は不透明な会計処理などの疑惑が浮上し、国内外で厳しい目が注がれている。日本側はこうした経緯も説明したとみられる。
さらに茂木敏充外相は2日、マース独外相との電話会談で、「東西分裂から一つの街が生まれ、さまざまな人が共存するベルリンに像が置かれることは適切ではない」と、撤去を強く要請した。マース氏も「日本の強い懸念は理解した」と応じたという。茂木氏は9日、産経新聞の取材に「適切な対応がなされた。歓迎したい」と語った。
公共の場に設置された慰安婦像が撤去されれば、2018年のフィリピン・マニラ以来となる。安倍晋三前政権は歴史認識をめぐる対外活動を強化し、菅義偉政権もこうした方針を継承している。今回も外務省と官邸が連絡を取り合いながら対応した。
今回、外務省は外相会談のやり取りなどの公表を避けた。撤去に向けた動きを韓国側に察知され、妨害が入ることを防ぐためだ。日本側の目をすり抜けるため除幕式の案内を直前まで出さないなど、韓国側は「動きをステルス化している」(外務省幹部)という。
私有地に設置された像の撤去は難しく、韓国系住民が一定数を占める地域では自治体の理解を得にくいのも実情だ。政府は対外発信の強化など継続的な取り組みが求められる。
筆者:田村龍彦、石鍋圭(産経新聞)