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長崎県対馬の観音寺から盗まれ韓国政府が保管している仏像をめぐり、韓国の浮石寺が所有権を主張して引き渡しを求めている裁判で、韓国の2審の大田高等裁判所は2月1日、浮石寺の所有権を認めた1審判決を破棄し、請求を退けた。
この仏像は長崎県有形文化財に指定されている「観世音菩薩坐像」で、2012年10月、韓国人窃盗団によって盗まれた。翌年、窃盗団が韓国警察に逮捕され、仏像は回収された。この仏像について韓国忠清南道の浮石寺が「14世紀に倭寇に略奪された」として所有権を主張している。浮石寺側は高裁の判決を不服とし、10日、最高裁判所に上告した。
日本は奪うどころか保護
韓国人窃盗団によって日本から仏像が盗み出され、売買された例はこれまでにもあるので、目新しいことではない。現代の裁判に14世紀の倭寇が持ち出されること自体驚きだが、日本にとって問題は、大田高裁の判決が倭寇に略奪された可能性を否定しなかったことだ。判決は、両国の民法で時効が成立しているので、仏像の所有権は観音寺にあると認定したにすぎない。
韓国では日本が韓国(朝鮮)の文物を略奪ないし毀損したと考える傾向が強い。その時期として言われるのは倭寇、豊臣秀吉の出兵、日韓併合である。加えて、日本に文化を伝えたのは自分たちであるという意識もある。
だが実際には、中国にも朝鮮にも残っていない仏教の経典が日本には残っているといった事例がある。外敵の侵入がなかったことも幸いしたが、日本は文化財を大切にしてきたとも言える。
特に日本統治時代、日本は京城(現ソウル)、慶州、開城(北朝鮮)など朝鮮半島各地に博物館をつくり、文化財を保護した。文化財はもちろん、朝鮮の人たちが見向きもしなかった身の回り品にも着目して、愛着を持って保存、研究し、理解を深めたのは大勢の日本人研究者であった。
韓国司法には期待薄
日本の敗戦から間もない1946年1月8日付の有力紙・朝鮮日報に「国宝、芸術品、歴史的記録等、日本人に略奪された者は報告せよ」という見出しが見える。米軍政庁一般告示第7号として発せられたものらしい。
既に終戦直後の韓国において、日本が併合期に文化財を奪ったという認識があり、連合国の「威光」を利用していることが分かる。
本来なら国民の犯罪行為はもちろん、行き過ぎた行動を是正したり諫めたりするのは行政や司法の役割であるが、過去に遡って問題を蒸し返す発想と不可分の歴史認識を持つ韓国では、そうした役割は期待できない。
そのような相手に事実に基づく反論をすべきことは当然である。それと同時に、日本の国として文化財の管理を徹底し、盗まれる事態を未然に防ぐことも重要ではないだろうか。
筆者:荒木信子(国基研企画委員・韓国研究者)
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国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第1015回(2023年2月20日)を転載しています