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秋が深まり、ヌーボー(新酒)の季節がやってきた。スーパーの店頭には、フランス産ワインの新酒「ボージョレ・ヌーボー」の解禁(11月16日)を待つ宣伝の文字が躍る。
日本では一足早く、11月3日に「山梨ヌーボー」が解禁。こちらは、国産ワインの発祥地である山梨県で、今年収穫した日本固有種の「甲州」「マスカット・ベーリーA」で醸造された新酒を指す。
味わいは期待できそうだ。山梨県ワイン酒造組合によると、今年収穫されたブドウは最高評価の「優良」。春の発芽時期が早く、その後も順調に生育。夏にまとまった雨が降らなかったため味が凝縮し、県内の多くの地域で例年と比べて糖度が1~2ポイント高かったとか。
山梨から遠く離れた東京の下町にも、それを実感したワインの作り手がいる。「Book Road(部蔵人・ブックロード)」(台東区)の醸造責任者、須郷道子さん(52)だ。
「今年のブドウは本当においしい。『いいワインに仕上げなくちゃ』と強く思いました」
10坪の土地に3階建ての都市型ワイナリーは、「ワインをつくるには狭いけれど、掃除をするには広い。そんな広さ」(須合さん)。大型の発酵タンク(1000リットル)は4つで、保管や作業の場も限られる。山梨をはじめ、長野、茨城など産地からブドウが次々と届くが、タンクがあかないと搾れない。冷凍倉庫を活用しながら、「隙間を縫うように」効率よく醸造して、毎年10数種類ものワインを生み出している。
須合さんがタンクの蛇口をひねると、グラスに黄金色のワインが流れ込んだ。デラウェアのできたて。口に含み、「おいしい。午後から早速瓶詰めします」と笑顔を弾ませた。
ホッとしたのもつかの間。今度は、静かに発酵を進める甲州のタンクと向き合う。「目をかけ、手をかけ、ときには話しかけたりしながら育てるのは、子育てと似ていますね」
甲州は主に白ワイン用のブドウだが、赤ワインと同じように発酵中に果皮と種子を一緒に漬け込むと、夕焼け空のようなオレンジ色に仕上がる。優しい色と味わいの「醸し甲州」は同店の一番人気。今年ならではの味をファンは心待ちにしている。
「鍋料理でもタコ焼きでも、だしを使った料理ととても相性がいい。日本の土壌で育ったブドウのお酒だから、日常の食事に寄り添えるのも魅力です」
筆者:榊聡美(産経新聞)