松本幸四郎さん
コロナ禍で公演を中止してきた歌舞伎座が8月1日、対策を講じて公演を再開した。生の舞台は実に5カ月ぶり。公演に出演中の歌舞伎俳優、松本幸四郎さんは5日、JAPAN Forwardのインタビューに答え、公演を再開できたことへの喜びと観劇した観客への感謝の気持ちを語った。
松本さんは、コロナ禍でも「歌舞伎の火を消してはならない。そのためにできることは何でもしたい」と述べ、オンラインの利用など今後も新しいことに挑戦していきたいと力強く語った。さらには、歌舞伎が世界に誇れる舞台芸術であると強調し、「世界中の人たちにぜひ歌舞伎をやってもらいたい」と訴えた。
インタビューは、フェイスシールド着用などの感染防止対策を講じて行われた。詳細は次の通り。
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歌舞伎座が再開しました。ご感想は?
様々な制約があり、本来の芝居の楽しみとは違う環境ではありますが、皆様と再会する事ができました。第一歩が踏み出せました。とても嬉しいです。このまま千穐楽まで無事に勤められればと願っています。
初日は客席で泣いている方もいました
公演初日、花道から出てきた時にお客様の拍手が鳴りやまず、黒御簾音楽が聞こえないという初めての体験をしました。ああこれだけお客様が待っていてくれたのだと感激しました。「高麗屋」(幸四郎さんの屋号)と書いた紙を自分に見せてくれたお客様がいました。大向こう・掛け声が禁止ということでのお考えだったと思いますが、わざわざご用意頂いたのでしょう。その紙を見て「高麗屋!」と呼ぶ声が自分には聞こえました。とても嬉しかったです。お客様あっての舞台です。改めてお客様には感謝を申し上げたいです。
コロナ時代の歌舞伎とは?
歌舞伎は役者だけでなく、大道具、小道具、床山、衣裳など凄い技を持っている職人たちが作り上げています。6カ月も休んでいたら、からだが動かなくなってしまいます。劇場以外でも出来る公演、表現というものを一生懸命考えて、オンライン会議システム「Zoom」をもじった「図夢歌舞伎」というオンライン配信を企画し、5週続けました。舞台で出来る事、映像で出来る事、オンラインだからこそ出来る事を考え、1画面に一人しか出ない制約を逆手にとり、アングルや画面を繋げるといった工夫をしました。
今後は、ネット配信が増えるのでしょうか
もちろん舞台を観ていただきたいのですが、映像は集中して観て貰えるという利点があり、オンライン配信にも別の可能性があります。今回はオンライン配信歌舞伎のスタート。100年後の人が「あれから始まった」と語る歴史の始まりに自分は居るのだと思います。今後、オンラインを含め、時代にあった表現方法を追求していきたいと思っています。
ネット配信で、海外ファンの数も増えてくるのでは?
はい。海外の方には、ぜひ日本にいらして、歌舞伎専用劇場で完全版をご覧になって頂きたいと思います。それが本来の楽しみ方です。早くそういう環境になる事を願っています。もう一つは、世界中の方々に歌舞伎をやってもらいと思います。日本には、世界中のいろいろな舞台芸術があります。同じように、海外で歌舞伎が舞台芸術の表現の一つとして選ばれるようになってほしいと願っています。歌舞伎には、その力があると思います。そのために、僕は海外公演に行っています。
歌舞伎や世界の舞台芸術はどうコロナを乗り越えるのでしょう?
「図夢歌舞伎」をやったのは、コロナ禍の中で歌舞伎の力を信じるしかなかったからです。とにかくどれだけ好きなのかに尽きるのではないでしょうか。生の舞台が中心でありたいと願っていますが、それが出来ないのであれば、リモートでも歌舞伎の良さ、楽しさをお届けしています。自分の芸を信じ、オンラインでしか出来ない事は何かを考え、それをどんどん取り込み消化し、こっちに引き込むことが大事だと思います。
力強いメッセージをありがとうございます
歌舞伎が誕生して400年以上、決して平和で豊かな時ばかりではなく、戦争もありましたが、人々に必要とされていたから歌舞伎は現代に残っているのだと思います。正直、コロナがどのくらい続くのかわかりません。何かをしなければ、歌舞伎がなくなってしまう。しかし、歌舞伎の火を消してはいけないという強い危機感があります。この事態を乗り越えるためにこれからも、何でも新しいことに挑戦していきたいと思っています。
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■松本幸四郎
歌舞伎役者の名跡。初代は1674年生まれ、今回インタビューした10代目が1973生まれ。300以上年続き、歌舞伎400年の歴史の中でも大切なポジションにいる家系である。歌舞伎以外の演劇や映像作品でも大活躍し実績も多い。