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Trachycystis flagellaris growing on a fallen tree. Sporophytes extend from the gametophytes. (©Sankei by Kazuya Kamogawa)

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精いっぱい雨粒を蓄えようとする小さな体に、透き通るような緑色。数年前に訪れた森で雨上がりの苔(こけ)の美しさに魅せられた。以来、野外で苔を探し撮影するのにハマっている。

 

倒木上に群落をつくるエゾチョウチンゴケ(鴨川一也撮影)

 

手入れされた寺社や庭園に、岩が転がる渓谷。苔のある風景は美しく、「モスグリーン」に囲まれると何より癒やされる。

 

風景を堪能した後はクローズアップしてみるのが楽しい。ルーペなどを目に当てると、動物の尻尾みたいにフサフサした葉や、三角帽子をかぶったような胞子体など種ごとの特徴がよくみえてくる。

 

スギゴケの仲間の胞子体。ルーペで観察すると形状がはっきりと見えてくる(鴨川一也撮影)

 

以前、乾燥しきった苔に霧吹きで水をかける瞬間を顕微鏡でのぞく機会があった。縮れていた葉が一斉に広がり、鮮やかな緑色に変化するのを見て、思わず声をあげて興奮した。

 

ミクロな世界が楽しい一方、その微細さ故に種の判別がしにくいのが難点でもある。かわいい苔たちの名前を覚えたいが、独学で図鑑と実物を見比べても分からないことが多々ある。

 

そんなときは観察会で専門家に教えてもらうのが近道かもしれない。お気に入りの名前や特徴がわかってくると、より愛着が湧いてくる。

 

北八ケ岳にある「白駒の池」周辺で行われた苔観察会。専門家が講師となって、自然の苔を見ながら特徴や判別方法などを教えてくれる=6月15日(鴨川一也撮影)

 

そこまでのめりこまなくても、普段の生活の中で「こんなところにも苔が」と見つけるだけでも面白い。多様な環境に適応したこの植物はどこにでもいる。ガードレールにへばりついていたり、歩道の隙間から顔を出していたり…。

 

これから迎える梅雨本番。足元の小さな世界に目を向けてみてはどうだろうか。

 

スギゴケの仲間の群落。白くなった倒木が映える(鴨川一也撮影)

 

筆者:鴨川一也(産経新聞写真報道局)

 

 

■苔(こけ)

蘚苔(せんたい)類とも呼ばれる陸上植物で、世界中に約2万種、日本には約1800種が生息しているとされている。種子植物よりも小型で、種ではなく胞子で増える。湿り気を好むイメージがあるが乾燥に強く、生息地は高山から湿原、市街地などあらゆる環境に及ぶ。

根がないため、土壌が必須ではなく、水分と栄養分は雨や露から体表面で吸収する。根に似た「仮根」と呼ばれる組織で岩や木、地面などに付着し、生物体を支えている。

盆栽のほか、生息する自然環境をガラス容器の中で再現する「テラリウム」など自宅で苔を育てながら鑑賞する人も増えてきている。

「コケ」という名が付けられていても実は蘚苔類ではなく、シダ植物や地衣類の場合もあるので要注意。

 

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