中国湖北省武漢市で発生し、世界的大流行(パンデミック)を引き起こしている新型コロナウイルスについて、中国当局が昨年1月、武漢での大流行を隠蔽するよう指示したとする文書を、月刊誌「正論」(2021年2月号)が入手した。新型コロナは世界中で8600万人以上が感染し、180万人以上の死者が出ている。習近平国家主席率いる中国共産党政権の「隠蔽体質」の証拠といえそうだ。
「重大突発伝染病防疫制御工作における生物サンプル資源及び関連する科学研究活動の管理工作の強化に関する通知」
「正論」が入手した文書には、このような題名(編集部訳)が付けられていた。日本の厚労省にあたる「国家衛生健康委員会」が昨年1月3日、伝染病の防疫とコントロールを強化するためとして、各省や自治区、直轄市などの関係機関に出したとされるものだ。
マイク・ポンペオ米国務長官は昨年5月6日の記者会見で、「(本当の感染者である)0号患者や感染が始まった場所の詳細は、中国共産党だけが知っている。中国は必要な情報の共有を拒否している」「武漢での大流行を隠蔽した」などといい、「通知」の存在を指摘していたという。
まず、「重大突発伝染病」とあるように、中国当局は当初から、未知のウイルスの深刻さを理解していたとみられる。関係機関には、各地の「人人感染病原微生物高等級生物安全実験室」が含まれており、ウイルスの「ヒト・ヒト感染」を把握していた。
「通知」では、病例生物サンプル資源(=病人の血液、血清、痰(たん)、死亡患者の死体組織、臓器など)の採集、運輸、使用及び科学研究活動の管理工作についてとして、10項目の要求(指示)をしている。
この中で、「正論」編集部は、以下の6番目に注目している。
「この通知が発出される以前に、既に関連する医療衛生機構で関連する症例の生物サンプルを取得している機構及び個人は、そのサンプルを直ちに隠滅、或いは国家が指定する機構に送って保存保管し、関連する実験活動や実験結果を適切に保存する」
編集部は「隠滅」と訳した理由として、「実態は、存在していた事物を跡形なく消してしまうことを示唆する色彩が濃い」と説明している。
中国政府は、ウイルスの起源を武漢とする説に否定的姿勢を示し続けている。外務省の趙立堅報道官は昨年3月、「米軍が武漢に感染症を持ち込んだのかもしれない」とツイッターで発信した。当局は最近、輸入冷凍食品に付着したウイルスが武漢に入ったとの説を強調している。
しかし、「通知」の3番目には、「最近の武漢肺炎の病例サンプルについては…」とあり、中国当局が当初、「武漢肺炎」と呼んでいたことが分かる。
新型コロナの起源解明については、世界保健機関(WHO)の国際調査団が1月に中国入りするとされていたが、新年早々に中国側に拒否された。「中国ベッタリ」と揶揄(やゆ)されるWHOのテドロス・アダノム事務局長は「大変失望した」と表明したが、新型コロナの証拠隠蔽を命じる中国当局が国際調査団の活動を妨害するのは、自明の理といえる。
今回の「通知」の一部を昨年2月、中国語や英語でいち早く配信したのは中国のニュースサイト「財新ネット」だった。「正論」編集部は今回、中国共産党の重鎮が、同社社長を叱責したという文書も入手・公開している。同文書は「これは私の君たちに対する最後の意見であり、君たちはいくつかの刊行物の轍を踏まないようにすべきである」と締めくくった。これは、廃刊を示唆する、露骨な恫喝である。
「正論」がスクープした文書をどう評価すべきか。
中国事情に詳しい評論家の宮崎正弘氏は「極めて重要な文書だ。これまでも、『中国当局がウイルス情報を隠蔽した』という記事が報じられたが、今回の指示文書の入手・報道で、共産党の隠蔽体質、無責任体質が改めて確認された。世界各国へのインパクトも大きい。だが、中国は『何もなかった』とウソをつき続けるのではないか」と語っている。
(夕刊フジの記事から)