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昨年11月に実施されたミャンマーの総選挙では、日本政府が供与した特殊インクが大活躍した。投票した人の指に着色すると一定期間色落ちしない。これで二重投票を防げるというわけだ。
「大きな混乱もなくおおむね順調に行われたと感じている」。日本の選挙監視団団長を務めた日本財団の笹川陽平会長が正論欄に書いていた。コロナ禍にもかかわらず、投票率は70%を超えた。結果は、アウン・サン・スー・チー国家顧問が率いる与党・国民民主連盟(NLD)の圧勝である。
実は選挙前は、NLDが苦戦するとみられていた。5年前の総選挙で掲げていた、少数民族武装勢力との和平など、公約はほとんど実現できず、経済も減速した。それでも前回より議席を増やした背景には、半世紀以上続いた軍事政権への国民の強い拒否感があったようだ。
国軍の受けた衝撃の大きさは想像に難くない。軍政下で定められた憲法により議席の4分の1が与えられているとはいえ、軍政の流れをくむ野党は惨敗した。国軍は民意を受け入れるどころか選挙の不正を訴えていた。2月1日、ついにスー・チー氏らの拘束に踏み切り、政権奪取を宣言した。
軍政時代のミャンマーと蜜月関係にあった中国が今回のクーデターに関与しているのか不明である。中国はこの国を巨大経済圏構想「一帯一路」の重要拠点として位置付けている。少なくとも権威主義的な国に回帰しようとしている事態を歓迎しているのは間違いない。
一方、米国とオーストラリアは、いち早くスー・チー氏らの解放を求める声明を出した。親日国として知られるミャンマーに日本は巨額の援助を行ってきた。民主主義の深刻な危機に、日本が強いメッセージを発するのは当然である。
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2021年2月2日付産経新聞【産経抄】を転載しています